メロンパンバターの豊かな匂いと、小麦の生地が焼ける香ばしい匂いと、砂糖の甘い匂い。八つ刻の鼻腔をくすぐる香りが、ふんわりと秋風に乗って辺りを漂っている。
いつもの如く除霊依頼を一瞬で片付けた茂夫を連れて、霊幻は駅前を歩いていた。匂いの漂ってくる方向に視線を向ければ、駅の出入り口の脇にぴったりと駐まっている一台のキッチンカーが見えた。車体は緑色とクリーム色で彩られ、傍らに立てられているのぼりには、"焼きたてメロンパン"の文字が踊っている。
(……ちょっと小腹が空いたな)
隣を歩いている茂夫に視線を向ければ、小さくて丸い頭頂部が僅かに動いたのが見えて、彼もあのキッチンカーを眺めているのだと分かった。
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