五伏
未来捏造
デートする2人のお話
「悟さん」
少し肌寒くなった季節、枯葉がちらちらと見える公園で雪を思わせるような白い髪と澄んだ空の色を見つけてゆっくりと近寄る。
珍しく周りに人は居なくて目が覚めた振りに会う恋人だけがぽつりと腰掛けている。
なんだか寒そうに見えて少し歩幅を広くとり距離を縮める。
2人の時は〜と駄々を捏ねた大人に決められた呼び方で恋人を呼べば今気づいた訳じゃ無いくせにパッと顔を上げて嬉しそうに破顔する。
「恵、遅いよ」
「はあ?、ッ、あんたが遅れて来いって言ったんでしょうが」
にっと笑った顔で少しの文句を言われて何がしたいのか分からず眉を寄せる。
だって、そうだ、今日の朝、ベッドの中で急に言い出したのはこの人だ。
いつだって振り回されるのは俺の方だし、それを楽しみにやってるところがあるのはもう、2桁にいく付き合いの中で嫌なほど思い知らされている。
朝、同居している部屋の(悟さんは同棲って言う)ベッドの中で言われたのだ。
「今日デートしよっか、恵は僕が出てから20分遅れて来てね!」
突然のことに呆然として、寝起きで頭の回らない中での発案に文句を言う暇もなく悟さんはベッドから出て初めてみるぐらいにテキパキと支度し始めた。
それからベッドで固まる俺を置いて颯爽と部屋を出たのだ。
暫くして携帯に集合場所を示した地図が送られてきて頭を抱えた。
付き合うしか無い…
そう腹を括って、動きの悪い関節を叱咤して準備を済ませてここまで来たんだ。
「…はぁ、で?何がしたいんです」
「んもー、ノリが悪いなあ恵、デートに決まってんじゃん」
「俺、家でゆっくりしたかったんですけど」
「何?姫様抱っこする?」
なんでそうなるんだ…
グッと顔が歪むのが分かる。
手を広げて小首を傾げる姿には全く可愛らしさを感じなくて深くため息をついてみせて踵を返す。
「あ、待って待って、恵」
「行くんでしょ、デート」
慌てて走り寄ってくる足音を聞きながらボソリと言えばいきなり背中に衝撃が広がり五条さんに抱き締められたのだと気付く。
ブワッと広がる五条さんの匂いと嬉しそうな声にどうしても折れてしまう…。
「この間恵が気に入りそうなカフェ見つけたからそこに行こう」
「…はぃ」
楽しそうな五条さんの雰囲気
任務で暫く会えなかった事もあって俺だって嬉しい…
スッと横に並んだ男は、いつまで経っても子供で、でもずっと大きい存在。
未だに追い越すことが出来ない存在だけれど、昔に比べれば対等になれただろうか…
寒い寒いと言って腕を組んでくる五条さんの好きにさせながらチラリと少し上にある澄んだ空色を盗み見る。
キラキラと光る綺麗な瞳は今も昔も変わらない。
この人の色が大好きで、出来ることなら俺の中に閉じ込めておきたいと思ったのはいつからだったか…。
きっと俺の影の中でもその輝きは変わらないし、どうしたって俺のものにはならないんだ。
欲しいな…
そう思っていれば五条さんがを見てばちりと瞳がかち合う。
あ…、と思うと同時に冷えた唇に柔らかな感触が触れてキスされたんだと気付いた瞬間に顔から火が出るんじゃ無いかと思うほどに熱くなる。
「ッ、ぁ、んた!何してんだッ」
「何って…キス、して欲しそうだったから?」
恥ずかしくて唇を雑に拭ってみれば五条さんが不満そうに唇を尖らせてなんとも無しに言い切る。
まじで、この人っ、まじでなんなんだッ
外で、しかもこんな明るい時間で…
周りに人が居ないのが幸いでムキになりそうな気持ちを自分の中で抑え付ける。
キスの瞬間に広がった綺麗な瞳の色にドキドキと心臓は飛び跳ねている。
それを隠す様に俯けば、変わらず楽しげに揺れる身体から五条さんの機嫌が良い事が伝わってくる。
暫くして着いたカフェは落ち着きのある静かなお店で店内に白と黒の猫がいた。
自由気ままに店内を歩く猫が気高くて、愛らしくて猫らしい振る舞いに目を細める。
前に一度高専で犬派か猫派か聞かれたとき、犬派だと答えた気がする。
今だって犬派なのは変わらないけれど、うちの子はみんな可愛いし、高専を卒業して手の掛かる大きな白猫がいついてしまってどうしても比べてしまう。
店内の白猫と目が合った気がする。
なぉと少し野太いどっしりとした鳴き声に、思っていた声と違ってそのギャップに小さく咽せる。
「ふっ、」
「え…何?急に、面白いことでもあった?」
向かいに座っていちごパフェをつつく五条さんが珍しいものを見たとばかりに顔を覗き込んできて余計にツボに入る。
結局笑い終わった俺に理由をせがみ、猫と比べられたのだと知ったその人はキッと白猫を睨みつけて言った…
「僕の方が可愛いし」
「はいはい、そうですね」
「ちょっと恵っ」
大人とは思えない発言に目を細めて流せば直ぐに名前を呼ばれる。
たったそれだけのことでも嬉しいし楽しくて顔には出さないようにしながらコーヒーを飲み込む。
早く帰りたい…
早く帰って家で2人で居たい。
そうすれば人目を気にせずにいられるのに…
パフェを食べ終わったら次は何処に行くんだろうか、そう思っていれば頬杖をついた五条さんと目が合う。
「物欲しそうな顔しちゃってさ」
「ッ…だって」
全部見透かされている様な言葉に声が詰まって手の中のカップを握る力が入る。
見据えられた瞳がスッと細まって熱を含む瞳の色にゾクリと背中が粟立つ。
「可愛い…好き、食べちゃいたいなあ」
こくりと喉が上下する。
生唾を飲み込む音が妙にハッキリと頭に響いて息が止まる。
「…恵、、帰ろっか」
パフェのグラスから手が離れたかと思えばするりと白くて長い指が俺の手の甲をくすぐって、強制とも疑問とも取れる言葉がぼそりと落とされる。
その誘いに、俺は頷くしかない。
end.