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    dokoka1011056

    @dokoka1011056

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    dokoka1011056

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    前にネタツイとしてあげた文化財の守人のおっさんのやつ。完全にパラレルワールドなので似姿の別人たちです。でも同じような関係性を紡いでいく。

    #一斬
    oneChop

    薄氷のタナトス.1暗くて、静かだ。緑の濃い匂いが不思議と心を落ち着かせてくれる。



    中3の夏休み。部活が連休の期間に入り、やらなければやらないことは山ほどあるのに、男子たちは時間を持て余していた。決して暇では無いが、夏らしいことがしたかった。花火、海…金が掛からず、保護者の目も逃れられるちょうどいい自由を求めた。

    幽霊屋敷と呼ばれるその洋館は、暗闇の中で静かに佇んでいる。
    河川敷を国道沿いにまっすぐ進むと、林道への分かれ道が現れる。男子中学生のチャリの群れは、ウッドチップを跳ね散らかしながら林の奥へ向かう。
    10分ほど立ち漕ぎすると、飾り気のない緑青の柵で囲まれたエリアが現れる。遠景に群青色の瓦で覆われた三角屋根が見える。地元で幽霊屋敷と名高い洋館だ。

    そこまでは、地元の子供なら皆来たことがある。その柵が少し力を込めると抵抗なく開くことも知っている。
    ただ、その先の緑のトンネルがあまりに不自然で、立ち入ることを躊躇わせる。明らかに植生が違う、人の手が入った茂み。なのに、無造作に生え散らかしたそれは廃墟を連想させた。

    だが今宵、その神秘は破られるのだ。夏の魔力にあてられた無敵の少年たちの手によって。
    ゆるく上がった息を整え、彼らは自転車から降りた。



    「やば、マジの廃墟やん!」
    「草ボーボー、かゆい」

    夜露にしっとり濡れた前庭を通り、馬鹿騒ぎする友人たちの後ろからゆっくりとついていく。恐怖を忘れた戦士のように響き合う友人の声とは裏腹に、一護は場の雰囲気を楽しんでいた。

    暗くて、静かだ。緑の濃い匂いが不思議と心を落ち着かせてくれる。

    だがそれと同時に、一護はある違和感に気が付いていた。
    道だ。足元に道があるのだ。林道の大ぶりなウッドチップとは違う柔らかな腐葉土のような踏み心地。獣道ではなく、確実に人間が敷設した歩道だ。縦横無尽に枝葉を伸ばしているように見えた植木にも、よく見ると剪定された痕がある。これもやはり、人間が通るスペースのために切り揃えられているようだ。

    「(ワンチャン人いるんじゃねコレ?)」

    一抹の懸念が頭を過ぎる。しかし、この辺りに人が住んでいるとは聞いたことがない。もし自分の子供が人様の家を心スポ呼ばわりしていると知れば、親は当然怒るだろう。小さい頃からそういった叱咤を受けたことはない。

    前庭を抜けると、一気に視界が開けた。
    息を呑んだ。廃墟などとは口が裂けても言えない、美しい白磁色の外壁にツタを纏わせた洋館だ。群青色の洋瓦が良く映える。
    感嘆する一護を余所に、友人たちはたじろいでいるようだ。

    「え、コレ人いるんじゃね?」
    「いやでも人住んでたら真っ暗はおかしいだろ」
    「入口だってあんなボーボーだったしさ」

    軽く言い合いながらも、このまま潔く帰るという選択肢は彼らには無かった。最後の夏休みの思い出を不完全燃焼で終わらせるなんて、絶対に嫌だったのだ。
    中には入らないまでも、せめて一周ぐるっとしてみようという意見に落ち着き、時計回りに屋敷を回ってちょうど裏手に出た。



    そこで目に飛び込んできた物に、彼らの心臓が跳ね上がった。
    生え揃った芝生の裏庭のど真ん中に、不自然に突き刺さったシャベル。周囲には明らかに掘り起こした跡がある。
    シン…と空気が鎮まる。





    「…え、これ人埋めた?」
    誰ともなくポツリと呟いた瞬間、


    「何をしている」


    振り返ると、カンテラの仄暗い光に照らされた黒い人影がこちらを見下ろしていた。
    その光景を咀嚼する間も無く、恐怖に戦慄いた悲鳴を上げながら千々になる少年たち。その喧騒は刹那の間に遠ざかり、後に残ったのはたった一人だった。

    「えっと…サーセン…」

    申し訳なさそうな面持ちで肩をすくめる少年が、口籠もりながら謝罪する。
    黒い人影は、カンテラを前に掲げて一護の顔の高さに合わせた。
    夜闇に慣れた目には明る過ぎる。そして、チカッと何かに反射した光が目を射抜いた。男がかけているミラーシェードだった。



    軽くため息をついた家主に促され、一護はエントランスのソファに腰掛けた。無言で、お行儀よく両膝に手を置いて、固まっている。
    一護を放置して奥に引っ込んでいった家主は、5分ほどして戻ってきた。コトリと、ココアの入ったマグが2つ、小さなローテーブルに並ぶ。
    無言でマグに口をつける家主の、深い海のような瞳が一護の顔とマグを順番に見る。促されていると気が付いた一護もそろそろとマグを持ち、「イタダキマス…」と小さく呟いた。

    肩をすぼめ、ちまちまとココアを啜っている一護を後目に、家主は人肌程度にぬるくなった残りを一気に飲み干した。「飲んでいなさい」と告げてまた席を外そうとした家主の背中を、「あの!」と呼び止める。

    「あの、サーセンした…。人住んでるの知らなくて、いや、住んでなくても勝手に入るのは…ダメでした…」
    「…。」
    「俺、××中の黒崎一護です。住所は××」
    「…。」
    「警察来たら、ちゃんと自分で言います」

    良心の呵責に耐えかねたように、一護の口から言葉が溢れ出す。その手は硬く握り締められ、声は今にも泣きだしそうなほどに震えていた。実際に、琥珀の瞳には薄く水の膜が張っていたのかもしれない。
    それを見下ろした家主の目が、少しだけ緩んだような気がした。何の動揺もなく事態を処理していた男の表情に少しだけ感情が灯った。

    「…いいから座っていなさい」

    再び一人になった一護のもとにスマートフォンの軽快な着信音がかすかに届く。洋館なのに黒電話とかじゃないのかよ、と場違いに思った。



    20分後、一心のラリアットを甘んじて食らってから深々と頭を下げる一護と、その愉快な仲間たちがいた。
    千々になって逃げた友人たちは、すぐに一護を取り残してきた事に気付いたものの、戻る勇気などなく一心に泣きついたのだ。

    「ヒゲゴリラ!一護が…一護が…!!!」
    「助けてヒゲゴリラ!」
    「誰がヒゲゴリラだクソガキ共!」

    クソガキ共を車の後部座席に押し込んでエンジンをかける間際、一心のスマホに着信が入る。

    「誰だこんな時に…もしもし?」

    苛立ちを隠しもせず声を荒げて応答する一心だが、相手がすぐに話し出さない。不審に思い画面に表示される名前を確認する。

    「…あぁ。」

    何かに納得したような一心は突然落ち着き払い、スマホを耳に当てたまま催促もせず相手の応答を待つ。その相手はそれからたっぷり3秒無言を保ち、その後で「一護が待っている」とだけ告げて一方的に通話を切った。

    「律儀なやつ…」



    21時を回った夜更け。クソガキを1匹ずつ丁寧に親元に放牧した後で、一護も自宅に帰り着いた。
    暗いリビングで電気のスイッチに手をかけながら、一護が一心に問いかける。

    「親父、知り合いだったのかよ」
    「まぁな。お前、あの家行ったことあるんだぞ」

    初耳だった。あんな家がまるで記憶に残っていないなんて、そんなことがあるのだろうか。

    驚きも束の間、一護の意識は自分がやらかした人様への迷惑についての罪悪感に向いていた。

    「…で、なんつってた?」

    当然なんらかの制裁を受けるだろうと覚悟していた。自業自得の結果に覚悟なんて言葉はそぐわないが、軽率な行動に対する責任は可能な限り取りたかった。
    子供の自分が出来ることなど本当に些細なことだとは理解していた。だが、少年と青年のあわいにいる未成熟な心は、不安の淵を揺れながら、それでも真っ直ぐに自分の罪と向き合おうとしていた。
    だから、一心の言葉は一護の思いもしないものだった。

    「こんど、掃除手伝えってさ」

    それが、3年にわたる歪な友人関係の始まり。
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