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    somakusanao

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    春コミの原稿です

    春コミ原稿(凪玲)① 御影玲王は滅多に甘いものを食べないが、例外としてホテルに連れ込まれた日はベッドでアイスを食べていいことにしている。
     玲王の「アイスが食べたい」の一言で、提供されたアイスクリームはコンビエンスストアで買える量産品だ。今日はルームサービスの気分でもハーゲンダッツの気分でもなかったから。
     シャツ一枚だけを身に羽織り、アイスクリームにかじりつく。あまくておいしい。くちびるの端についたアイスクリームを舌で舐めとる姿は艶やで、佇んでいるだけで目に毒だが、その姿を見る者はいない。玲王をこんな姿にした男は脱兎のごとくホテルから逃げた後だ。
     物憂げな表情でアイスクリームに舌鼓をうつ姿は蠱惑的であるが、体は無垢で清らかなままである。
     






     御影玲王はどういうわけか、昔から同性の男に好かれる性質であった。小学生教諭に告白されたのを皮切りに、何人もの男から告白された。正直に言えば、気味が悪かったし、嫌だなと思った。髪が長いのがいけないのかと思って、ばっさりとカットすれば「きれいな顔がよく見える」と言われる。綺麗だというなら泥だらけになってやろうと、野球チームに入ってわざと顔を汚せば「きれいな顔が汚れていることに興奮する」と言われる。男らしくあろうと柔道部に入ってみれば「掃き溜めに鶴がいると思った」と言われる。意味がわからない。うんざりする。ある日、知り合いの男のマンションにつれこまれ、ベッドに押し倒され、身ぐるみはがされた。玲王が目をぎゅっとつむり、覚悟を決めた、その時だ。
    「駄目だ」
     顔を真っ青にした男が呟いた。
     彼は父親の友人であり、仕事のできる男だと評判だった。まだ中学生の玲王を、こども扱いしないところに好感を持った。彼に会って、体験談を聞くのを楽しみにしていた。いい人だな、と玲王が懐いた矢先のことだ。好きだと言われ、ホテルに連れ込まれた。良い人そうにみえたのはうわべばかりだったか。玲王が己の見る目のなさを嘆いた。彼に気を許した玲王が愚かだったのだ。玲王がすべてを諦めようとした、その時だった。
    「駄目だ。きみは美しすぎる」
    「は?」
     そう言うと彼は蒼白になって震えだした。いや、なに言ってんだ、おまえ。
     父親と同い年の男をおまえ呼ばわりするのは失礼だが、泣きそうな顔をして「もうしわけない」と玲王に謝る男は、正直に言えば情けなかった。彼に憧れていた気持ちはすべてふきとんでいた。混乱する玲王はほとんど裸である。玲王の滑らかな肌を目の当たりにした彼は、床に頭をこすりつけんばかりにして、もういちど「もうしわけない」と言った。
    「……ええと、」
     ちょっと意味がわからなかった。玲王はレイプされる寸前だったはずだが、レイプするはずの男が顔を蒼白にして土下座をしている。なんだこれ。
     服を着ていいかと聞くと、青ざめた顔ですぐに着てくれと服を差し出された。あんたが剥いた服じゃねぇか、と言えるような雰囲気ではなかった。
     気がつくと玲王は彼のマンションから放り出されていた。ポケットに捻じ込まれた札束はタクシー代であるらしい。

     そんなことが二度三度と続いた。彼らは玲王を猛烈に口説く。かわいいね。綺麗だね。あいしているよ。だが、いざ玲王とふたりきりになり、そういう雰囲気になると、途端にあおざめて、震えだす。
    「きみを穢すことはできない」
     なんだそれ。
    「おまえを手に入れると不幸になる」
     勝手に呪いにしないでほしい。
     彼らは勝手に玲王を好きになり、勝手に玲王を手に入れようとして、勝手に逃げていく。青ざめながらも果敢に玲王に触れようとしたものもいたが、泡を吹いて倒れた。玲王を一切汚さず、仰向けで倒れたところは褒めてやってもいい。さすがに見捨てられず、介抱してやろうとしたら、ガタガタと震えだし、ひたすら謝罪を繰り返した。玲王のほうが加害者のような気分になった。
     玲王を強烈に口説くのは圧倒的に男の方が多かったが、女性から言い寄られることもあった。すてきだ。かっこいい。と頬を染めていた彼女らも、けっきょくはふたりきりになると「おそれおおい」と逃げ出した。
    「玲王くんといっしょにいるのはつらい」「隣に並ぶと公開処刑」とさんざんに言われた。いや、なに、これ。俺って振られてんの?
      
     言い寄られているばかりで、玲王から好きになった相手はいないが、そんなことが続くとだんだんと疲れてきた。好きだと熱烈に口説いてきた相手も、玲王が髪をかきあげるだけで逃げ出す。足を組み替えただけで震えだす。シャツのボタンをひとつはずせば卒倒する。「ホテルに行く?」と囁いたなら、いい年した男が泣き出す始末だ。
     稀に果敢に挑む者も現れてても、玲王に触れるところまでいったところで、震えが止まらなくなる。曰く「悪寒が止まらない」だ。たしかにいま玲王の目の前にいる男の顔も蒼白であった。
     押し倒され脱がされるところまでは頻繁にあるため、色っぽいと言われる仕草は身についたが、おかげさまで童貞処女である。
    「おじさん、」
     男を誘う蠱惑的な視線を送り、玲王は睫毛を伏せる。こうすると男が堕ちることを玲王は知っている。目の前にいる男も、玲王のくちびるがゆっくりと動くのを、息をのんで見つめている。
    「おれ、アイスクリームがたべたいんだけど」
     魂を抜かれた顔をしていた男だったが、玲王がさらりと流れる髪をかきあげた瞬間に、跳ねるように頷いた。玲王は彼の様子に赤べこ人形を思い出した。牛の首がゆらゆらと動くユーモラスな郷土玩具だ。今なら彼は玲王の望みをなんでも叶えてくれるだろう。じっさい玲王に貴金属を贈ろうとした男もいたが、玲王は金銭に一切興味はなかった。なにせ玲王の父親は日本で知らぬ者はいない総資産7058億の大企業の社長である。自分で稼ぐならまだしも、一方的に金を贈られるだけなんて勘弁だ。
    「あまいの、たべたいな」
     玲王が足を組み替える。きわどいところがあらわになって、ねっとりとした視線を感じたが、それだけだ。あまえるように首をかしげると、彼はすぐさまルームサービスをとってくれるというが、「だめ」と断った。
    「雪見大福がいい」
     男がぽかんとした顔をする。どこぞの企業の社長であり、常は自信に満ちた姿がだいなしだ。
    「コンビニで売ってるよ」と玲王が教えてやると、シャツ一枚のまま脱兎のごとく駆け出した。一月の、いちばん寒い時期のことだ。大人なのに、馬鹿みたい。玲王はべぇと舌を出した。



     御影玲王はどういうわけか、昔から同性の男に好かれる性質であった。だから、相棒の凪誠士郎に「好きだ」と言われた時も、なんだ、おまえもかと思ったくらいだ。
     どうせおまえも髪をかきあげただけで逃げ出すんだろ。足を組み替えただけで震えだすんだろ。シャツのボタンをひとつはずせば卒倒するんだろ。「ホテルに行く?」と囁いたなら、泣き出す始末だろ。もしかしたら怒り出すかもしれないな、と思った。玲王を神聖視している同級生にはこのタイプが多い。凪が玲王を神聖視しているとは思えないが、言動に幼いところがあるから。
     けれど凪は玲王の大方の予想に反して、「いいの?」と意気込んだ様子で聞いてきた。心なしか頬が赤らんでいるように見える。少なくとも蒼白になってはいない。
    「俺、玲王のことめちゃくちゃにしちゃうかもしれないけど」
    「めちゃくちゃにしちゃうってなんだよ」
    「一回じゃたんないと思う。一回目は顔見てしたいけど、バックでもしたいし」
    「バックってなに?」
    「え?」
    「え? なに?」
     まじまじと玲王を見た凪が困惑したように「体位だけど」と呟く。凪の口ぶりからセックスのことだと見当がついた。ホテルの白いシーツのうえで、凪と玲王の手足が絡んでいる姿を想像し、かぁっと頭が沸騰する。押し倒されたことはある。裸にされたことはある。でもそれ以上のことはされたことがない。
    「うしろからなにすんだよ」
    「なにって、セックスだけど」
    「なんでうしろからなんだよ」
    「え……」
    「うしろからじゃなんにもできないだろ?」
     凪は「マジか」と言った。そしてもう一度「マジか」と言った。え。二度も言うことなのか? ていうか凪は知ってんの? 
    「玲王はホテルでなにするつもりだったの?」
    「……」
    「玲王?」
    「だっ、て、おまえも逃げるかと思って」
     今までの男はみんなそうだった。「きみをよごすことはできない」と玲王を置いて逃げた。凪だってそうなるはずだった。玲王はひとりでアイスクリームを食べることになる。凪がいなくなったホテルで食べるアイスクリームはつめたくて、とてもあまい。今日は何のアイスにしよう。凪の髪の色とおなじ、バニラのアイスがいいかな。そこまで想像していたのに。
    「アイスを食べるのは別にいいけど、俺はいなくならないよ」
     凪はやけに自信たっぷりだった。

      
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