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    やさ朝げんみ❌
    くうみやがショッピングモールに行くお話です

    ##くうみや

    私達はあの後少しの手続きをして、すぐに退院することができました。

    お医者様曰く、暫く安静にしておいた方がいいとの事で、私は数日の間学校をお休みすることになって。京目さんも、数日は依頼を受けないと約束してくれて。

    お医者様が心配するより元気だった私達は翌日、少し歩くくらいなら大丈夫、暇つぶしにと次に会う時に一緒に行こうと約束していたショッピングモールに出かけることになりました。



    昨日彼を好きだと自覚してしまってから火照る体をなんとか落ち着かせて準備を始める。心無しかいつもより張り切った格好になってないだろうか、と少し不安になる。うん、大丈夫なはず。

    よし、と少しだけ気合いを入れて玄関を空けると、いつもと変わらない笑みを浮かべた京目空帯の姿があった。


    「おはようございます。東宮さん」

    「お待たせしてすみません。えと、おはようございます、京目さん」


    少しだけ声が上擦った気がした。
    それに気付いたのかそうでないのか、彼は少しだけ微笑んでからまた口を開く。


    「じゃあ、行きましょうか」


    そう話す京目さんの瞳が、声が、優しくて。私は嬉しくなって元気よく返事をした。





    「いい時間ですし、先にお昼ご飯を済ませてしまいましょうか」

    「はい!今日は何にしましょうか?昨日は中華でしたし、うーん…」


    そうですね、うーん…と京目さんも一緒になって考え始めたのが視界の端に映る。

    ーーこういう何気ない時間も好きだなあ、なんて考えていたら思い付いたのか、少し間を置いて話し出す。


    「では、イタリアンなんてどうです?」


    いいですね!なんてまた元気に返事をすると、フッと笑った彼の手が私の頭をそっと撫でた。


    昨日した会話のせいだろうか。

    京目さんが私の頭を撫でることは以前からあったが、心做しか頻度が増えた気がする。

    嬉しいからいいのだけど、恋を自覚してからのそれは心臓が大きく跳ねるから少し困る。嬉しいからいいのだけど。

    えへへ…とまた頬が緩んでしまう。



    そうして2人、歩き出した。



    ショッピングモールに着いて、食事をして、服を見たり、雑貨を見たり、色んなものを見て。お互いが選んだ服を買ってしまったりなんかして。幸せな時間が流れる。



    思う存分楽しんだ後、そろそろ帰りましょうか、なんて話していた時だった。


    「あ、ここ、気を付けてください」


    はい、と目の前の段差を気遣って差し伸べられた手をふと見やる。今度出かける時に見せると約束してくれた腕時計は付けていない。

    当たり前だ、覚えていないのだから。
    それが私の願いだったのだから。


    ーーーーーー瞬間、あの時の自分の選択は正しかったのだろうかと考えてしまう。








    「忘れたくない」「一緒に部屋を出ましょう」「信じてくれないんですか?」「失望しました」



    彼の言葉が私の中にずっと残っている。









    あの日、自分を庇うようにして抱きしめた京目さんの腕の隙間から見えた、あのおぞましい物体が脳裏に焼き付いて離れない。

    あれを直視してしまったら。彼がーーーーー、壊れてしまったら。きっと私は私でいられなかった。だからこれでよかったのだ。
    そう自分に言い聞かせる。

    私の選択は正しくはなかったかも知れないけれど、間違ってもいなかった。

    彼が目の前にいて、笑いかけてくれている。それだけで安心して緩んでしまう自分の頬が何よりの証拠だ。





    「…?どうかしましたか?」


    その声でハッとする。どうやら差し出された手を見つめながら固まっていた様だ。


    「あ、いえ!ごめんなさい!…ありがとうございます」


    そう言って彼の手を取る。

    この緊張が伝わってしまわないだろうか。そんなことを思いながら。











    あのね、京目さん。






    貴方が無事で、本当によかった。











    あの日のことは、私がちゃんと覚えてます。

    だからこれからまた沢山話をして、聞いて。何度でも幸せな気持ちになろうって、決めました。きっとゆっくりになると思いますけど、あの日の私達に追いつけるようにがんばります。


    京目さんと一緒なら、何だってできそうな気がしてるんです。






    大好きですよ。


    この気持ち、いつか伝えさせてくださいね。
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