赫灼の少年のささやかな願い生まれたときから前世の記憶があったかと言われると、断言ができない。当時の記憶がないからだ。いくら前世の知恵を駆使しようとも幼児期健忘は免れることではない。
物心付いたとき"それ"は至極当然のように俺の一部として馴染んでいた。だからきっと、ずっと当たり前のものとしてあったんだろう。それは妹の禰豆子も同じで、2人きりになったときは昔の話をして楽しんでいた。
直に幼稚園に入園して、前世で戦いを共にした嘴平伊之助に再会した。あちらも記憶があったようで、目があった瞬間に「かまぼこ権八郎!久しぶりだな!」と叫ばれた。思わずこちらも「誰だそれは!」と叫び返してしまった。滅多に大声のあげることのない俺が知らない子に叫んでいるのを見て母さんが目を丸くしていたように思う。話し声がうるさいというのは前世でもよく言われていたし、それは変わってないが、やはり彼らを相手にしたときのように声を出すことはあのときまでなかったから。
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