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    Kuoniori0903

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    たまには大人っぽいお話書きたかったんだろうな

    #炭善
    TanZen

    孤島の逃避行「善逸、抱いていいか」
    肩に重さを感じながら、真っ直ぐにこちらを向く彼から目を逸らして窓の外を見た。外は雲ひとつなく、夜空には少し眩しすぎるくらいの満月がうかんでいた。すごく綺麗なんだけど、これが星の光を全て打消して無いものにしているのだと思うと、少しゾッとする。俺は窓越しに見つめてくる兎からも視線を外し、フローリングの線を少しなぞった。喉が渇くな。そう思った。
    俺を押し倒すこの男は、名を竈門炭治郎という。小学校低学年時代からの親友で、下手すれば家族と言っていい程に気心の知れた仲だ。彼と俺はそれぞれ、異常にいい鼻と耳を持っている。数いる友人の中でも彼からは特段澄んだ音が聞こえて、俺はそれが好きだった。音と匂いという違いはあれど、それは向こうも同じであったようで、俺たちはいわゆる共依存の関係に嵌っていった。大人になってもその関係性は変わらず、むしろ悪化して、いつの間にか俺たちは半同棲状態になっていた。その次に加わったのは、キス。月が出る晩だけというルールを俺が心の中で勝手に作っていたことを、彼はきっと知らない。
    他人から見れば、歪な関係性。わかっていたけど、彼のそばにいれるなら構わなかった。俺は彼を好いていたからだ。ライクじゃなくて、ラブの方で。伝える気は毛頭ない。彼は女の子が好きで、キスの関係が始まる少し前までは彼女だっていたのを知っている。そんな奴に、どうして好きだと伝えられるだろう。自分の痛む心は、無視をした。
    そんなだから、彼が赤の奥で炎を燃やしているのだって、少し嬉しくもあった。だから、俺はこう答えたんだ。
    「……いいよ」

    次の日、目が覚めたら隣ではやけに顔の整った幼なじみが眠っていた。当然だが服は着ていない。
    「……」
    おでこの痣を軽く撫でてみたが、起きる気配はなかった。相当深い眠りについているのだろう。痛む腰を労りながら炭治郎を起こさずベッドを降りることに成功した俺は、適当な服を着て、最低限の荷物を持って部屋を出た。スマホは置いていくことにした。
    以前から決めていたことがある。もし炭治郎と一線を超えたら、その時は彼から離れるということだ。あの堅物長男が俺を求めることがあるとすれば、それは彼が俺に対して俺が彼に向けるものと同じ気持ちを向けているということだ。それはダメなんだ。彼は、普通に女性と恋をして、普通に結婚して、普通に家族を作らなきゃならないんだ。その家族に向くべき愛を、子供も産めない俺が享受していちゃいけない。きっと彼のことだ。何としても俺を見つけようとするのだろう。だから、いっそ消える覚悟をした。
    全ての人とのつながりを断って、彼が好きだと言ってくれた金髪を黒く染めた。置いてきた荷物は全部、業者に頼んで処分してもらった。炭治郎にバレないよう内密に。町を出て、電車を乗り継いで海沿いの町まで行ったら通帳からお金を下ろしてそのままフェリーに乗った。フェリーの甲板から海を眺めていたら柵に何かがぶつかった音がして、見下ろしたら炭治郎と撮った写真を入れてあるロケットが揺れたせいだと気づいた。首から外して、一瞬悩んでから捨てずにポケットに滑り込ませた。ひとつくらい思い出の品があったって、いいと思った。

    降り立ったのは、人がほとんどいない小さな島。電波は通っている場所が少ないようで、携帯がなかったところでさほど生活に支障はないらしい。スマホがない生活なんて長らくしてなかったから少し心配だったが、どうも杞憂で済んだようだ。
    適当に選んだ島だったが中々発展していて、スーパーなんかも普通にあった。生活には困らなさそう。海は整備こそされてなかったけど、天然のビーチが出来上がってたくさんの人が太陽に照らされたクリスタルブルーの海で遊んでいた。住む場所を準備してこなかったから、島に入ってすぐに見つけた民宿に泊まり込むことにした。お金はギリギリ足りた。
    「お兄さん、旅行かい?」
    「ええ、まあ」
    嘘をつくのは心苦しかったけれど、バカ正直に言うのもなんだか嫌な気がした。男に抱かれて出てきました、なんて。
    「珍しいね。こんな辺鄙な場所に。民宿はもううちだけだし、そのウチだってもう畳もうかと思ってたんだよ」
    「……海が綺麗なところに行きたくて」
    おばあさんは俺の顔を一瞥して、手元の帳面に何かを書き込みながら
    呟いた。
    「そりゃあいいね。ここはなんも無い島だけど、海だけはよく見える」
    「そうですか」
    「ああ。客は来ないから商売上がったりだがね」
    それは辛い。俺が少し笑いを漏らすと、おばあさんはそれまでの仏頂面を僅かに弛めた。
    「1日1回だが、一応郵便は届くし送れる。郵便局に行きゃあ小包だってね。悪くは無いさ。穏やかに暮らしたいならね」
    何もかも知っているようなお婆さんだと思った。
    「居たいだけいりゃいい。どうせほかの客なんて来やしない」
    客が来ないことを強調するのは、もしかしたら俺が気を使わずとも済むようになのかもしれない。ただの自意識過剰、思い上がりかもしれないけど。お言葉に甘えて、しばらく滞在することにした。
    「1番いい部屋にしといたよ」
    「あ……ありがとうございます」
    ホテルと違って部屋の鍵なんかもないらしく、おばあさんは部屋名を書いた紙だけを俺に手渡して奥へと戻って行った。
    碌に運ぶものもない。俺は部屋に入ると窓を開け、そのまま畳に寝転がった。い草の匂いはしなくて、少し古いものなんだろうけど綺麗に手入れされていた。押し入れから出した布団はお日様の匂いがして、それがあいつを思い起こさせて目頭が熱くなった。炭治郎、ごめんな。急にいなくなって驚いただろ。頼むから、俺の事なんて忘れて幸せになって欲しいんだ。
    窓から見た海は群青色に染まっていた。

    「ん……」
    いつもよりも少し遅く起きると、俺が泊まった日は必ず隣で寝転んでいるはずの善逸がいなかった。起き上がって服を身につけ、部屋中を見て回ったが彼の姿はなかった。スマートフォンが置きっぱなしだし、コンビニでも行っているのだろうか。それなら朝食を作って待とうと思って、キッチンに立った。使い慣れた調理器具たちを駆使しながら彼の好物を作っていく。
    作り終わって時計を見たら、30分近くが経っていた。コンビニにしては少々時間がかかりすぎていると思う。彼にウォーキングの趣味なんてあっただろうか。首を傾げてソファに座った。
    その日から、待てど暮らせど彼が部屋に帰ることは無かった。

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