わたしが誰より一番 四月三日。春休みも残り僅かになり、新学期を間近に控える頃。そして、今日は――。
「大迫先生、お誕生日おめでとうございます!」
俺が一年、二年とクラス担任をしている一人の女子生徒に誕生日を祝われた。そう、今日四月三日は俺の二十六歳の誕生日だ。
「おう、今年もありがとうな」
彼女に誕生日を祝ってくれた礼を言うと、彼女も嬉しそうに笑った。
「あの、先生。今年もわたしが一番ですか?」
「ああ、今年もおまえが一番だぁ」
「ふふ、やった!」
彼女は今年も一番に俺の誕生日を祝えたことを喜んだ。というか、去年は一番どころか俺の誕生日を祝ってくれたのは彼女だけだった。俺の誕生日なんてよく知っているなぁと思うが、こうして生徒に誕生日を祝ってもらえることは嬉しいことだと彼女に教えられた。
「でも、来年はおまえも卒業だからなぁ……」
こうして彼女に誕生日を祝われるのはきっと今年が最後だろう。俺の誕生日を祝う生徒なんて彼女くらいだったから、来年からはそれが無くなると思うと、少し寂しいように感じてしまう。
「大迫先生……?」
「いや、おまえももうすぐ三年生だからな。気を引き締めて頑張れよぉ!」
「はいっ!」
彼女は元気ないい返事をして走り出した。去年と今年のたった二回だけでもこうして彼女に祝ってもらえただけで十分、元気そうな彼女の姿を見てそう思った。
「あっ、先生!」
何か言い忘れたことがあるのか、彼女は俺の方へ振り返った。
「来年の先生のお誕生日もわたしが一番にお祝いします!」
来年はもう卒業してもうここにはいないのに、彼女は来年の俺の誕生日も祝うと言った。これは彼女なりの気遣いだろうか。
「そうかぁ、来年も楽しみにしてるぞぉ」
きっと来年の誕生日を祝われることはなくても、祝おうとしてくれた彼女の気持ちは今しっかり受け取った。この先の誕生日も、彼女のような生徒がいたことを忘れずに年を重ねていこうと思った。
それから一年後。彼女ははば学を卒業し、新たな生活を迎えることになった。
「大迫先生、お誕生日おめでとうございます!」
彼女は今年も変わらず俺の側にいて、誰よりも早くこの言葉を届けに来た。
「ありがとうな、今年もおまえが一番だぁ」
「はいっ、一番です!」
と、誇らしげに笑う彼女とこの先も年を重ねて行けることを幸せに思った二十七歳の誕生日だった。