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    roziura3

    @roziura3 なんとなくの文章だけ。

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    roziura3

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    志保さんと赤井さんの話。カプではない。

    寓話雲行きはあやしい、春も間近だがまだ肌寒い。待ち合わせにはまだ時間があるが待たせるのも忍びないので走って向かった。急いだおかげで10分前についたけど、相手はすでにそこで待っていて舌打ちしたい気持ちになった。負けた気がする。

    明るい空の下でその人の素顔を見るのはなにやら新鮮だった。姉もこんな風にこの人と待ち合わせて、声を掛けて腕を組んで出掛けていたのだと思うと不思議な心地がした。見たことないんだけど。既視感。

    その人は今日も真っ黒のジャケットを着ていたが、ニット帽は被らずに髪をセットして整えていた。タバコは吸っていなかった。手持ち無沙汰な様子で、待ち合わせの駅の改札前で私を待っている。彼を見てヒソヒソ話す女性もいたが、隙を全く見せないために声をかける人はいない。どんな顔をして声をかければいいかしら。つかの間、表情作りに悩む。けれど心配は無用だった。声をかける前に、彼は私に気づいてしまったのだった。

    「お姉ちゃんと行った場所に、連れて行ってほしいの」

    病院で目を覚ましたとき、そばにいたのはその男だった。 男自身も怪我を負って入院していたらしい。別室にはまた、安室さんも入院していた。男、安室さんと続けて目を覚まし、私が意識を取り戻したのはその三日後だった。
    私の部屋を毎日訪れていたという安室さんが、その瞬間だけは病室にいなかった。代わりに近くにいたのがこの男だった。虚ろに空間を見渡す私を認めても男の表情はあまりかわらず、「気づいたか」とだけつぶやいた。灰原と沖矢ではなく、宮野志保と赤井秀一としての対面はあっけなかった。

    経過観察で一週間入院。足に怪我を負っていたので松葉杖が必須で、そのうえリハビリに通わねばならない。
    落ち着いたら話をしようと男はいった わたしはそれに対しただ一言返した。お姉ちゃんと行った場所に連れて行ってほしいの、と。

    「今日はどこへ行くの」
    「恵比寿ガーデンプレイスだ」
    「恵比寿、ガーデン、プレイス…」
    「映画を観たあとランチだ」

    なにそれ恋人みたいじゃない、って、事実姉とこの男は恋人だったのだ。姉は誰からだって愛されたのに、全く恋人をつくらなかった。やっとつくったと思ったら、得体のしれないバンドマンみたいな男で、第一印象からして最悪だった。そうだった思い出した。嫌いだったんだわ。

    でも姉は、「仲良くなってね」と毎回口に出していた。仲良くなってね、一緒にカレーを食べよう、今度志保も一緒に買い物に行こう、大くんね、かわいいところもあるから。
    言われる度に顔が歪んでしまうんだけど、それだけ言われたら向き合わなきゃとあの頃は男をよく観察していた。なんというか、他人に興味を持ったり執着したりしないタイプに見えた。なんで姉と付き合っているのだろう。でも、その先は考えたらだめ。恋ってそういうものらしいから。姉は幸せそうだった。私は深堀することをやめた。
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