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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    浬-かいり-

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    くらさわ(倉田×奥沢)

    #ガルパ
    galpa
    #くらさわ

    傘へ誘うは迎え梅雨「わ、雨だ。どうしよう……」


     今日は楽しみにしていたファンタジー小説の発売日だった。学校が終わってからすぐに本屋に寄って目当ての本を買って、ついでに他に何か面白そうな本が無いか店内を回って。
     そうしてやっと帰ろうと自動ドアの先へ踏み出したら、勢いよく降る雨が私の帰路を遮っていた。今日降るって言ってたっけ。


    (どうしよう、傘持ってないや……)


     駅まではそこそこ歩かなきゃいけない。この雨の中じゃせっかく買った本が濡れてしまう。それだけは絶対にダメ。でも、ここでずっと待っててもいつ止むかなんて分からないし……。


    「あれ、倉田さん?」


     後ろで自動ドアの開く音と、知ってる声。振り返ってみれば、一つ年上の他校の先輩の姿。ハロー、ハッピーワールド! の美咲さんだ。首を傾げて私を不思議そうに見つめていた。


    「美咲さん……! こ、こんにちは!」

    「こんにちは。奇遇だね、倉田さんも本買いに来てたんだ?」

    「はい! 美咲さんも?」


     そうだよって頷く美咲さんは、私と同じように本の入った紙袋を抱えていた。そして私の顔と空を見比べるように交互に見てから、眉を下げて微笑む。


    「あー……、もしかして、傘持ってない?」


     ぎこちなく頷く。どうしよう、こんな雨の中傘を持って来なかったなんて、変だって思われてないかな。美咲さんは優しいからそんなこと思わないかもしれないけど、でも———。


    「良かったら、入ってく?」


     そんな心配を他所に、やっぱり美咲さんは優しかった。鞄から取り出した折り畳み傘を広げながら、手招きをするように首を傾げて尋ねてきた。
     傘に入れてもらえるのは助かる……けど、迷惑じゃないかな。わざわざ先輩に送ってもらうなんて、厚かましいんじゃないかな。迷惑かけるくらいなら、やっぱり走って帰った方がマシなんじゃ……。


    「……あ、でも、誰か待ってたりする?」

    「い、いえ! 違うんです、その……!」


     私がずっと困った顔をして黙っているから、美咲さんも困ったような顔になってしまった。どうしよう、そんな顔をさせたい訳じゃないのに。こういう時は、どうすればいいんだろう。


    「じゃあ入っていきなよ。本、濡れちゃったら困るでしょ」


     そう言って再び柔らかく微笑んだ美咲さんの表情になんだか安心してしまって、気付けば「お邪魔します」なんて言いながら恐る恐る傘の中へ入れてもらっていた。紺色の傘が、僅かに此方へ傾く。「駅まで?」って言葉に頷けば、ゆっくりと駅の方へ向かって歩き出した。
     夕方の人通りはそこそこ多いのに、聞こえてくるのは雨が傘を叩く音だけ。まるで、傘の中だけ孤立した世界になったみたい。


    「倉田さんは、今日はモニカの子達と一緒じゃないんだね。バンド練習はお休み?」

    「はいっ。透子ちゃんとつくしちゃんと七深ちゃんは、この後お洋服を見に行くらしいんですけど……。私は本を早く読みたかったから今回は断ったんです」

    「分かるなぁ。新しい本ってワクワクするもんね」


     先輩との会話って緊張するけれど、美咲さんはいつも優しく相槌を打ってくれるので凄く話しやすい。


    「はい。それに……、あの三人が見るお洋服、私には高過ぎてびっくりしてしまうので……」

    「あー……月ノ森ってそう言えばお嬢様学校か。……金銭感覚が自分と違う人と一緒に居るのってさ、たまに疲れちゃうよね」

    「えっ、美咲さんも?」

    「うちもとんでもないのが居るからさ」


     美咲さんの苦笑いに頷く。聞けば、美咲さんのバンドのボーカルであるこころさんは、財力も行動力も凄いらしい。自家用の飛行機があるとか、はぐみさんの誕生日にバッティングセンターを建てたとか、海外の王様がお友達とか。聞いてるだけで私は目が回っちゃいそう……。


    「す、すごい……。想像できないかも……」

    「ね。なんかあたし達、境遇似てるかもね?」


     二人で笑い合う。話しやすいのも、ひょっとしたら同じような境遇に居るからなのかな。
     ……ううん、でも似てるのは置かれてる境遇なだけで、他は全然似てないと思う。だって私は美咲さんみたいに、なんでも器用に出来る訳じゃないし……。

     そうしてお喋りしながら暫く歩いていると、空が点滅するように強く光った。少ししてから、がしゃんと大きな音が轟いて、びっくりして思わず声が漏れて肩が跳ねた。隣を見ると、美咲さんも身体を強張らせながら空を見ていた。


    「……倉田さん、この後は本読む以外の予定ってある?」

    「……? いえ、特にないですけど……」

    「ちょっと何処かで休んでいかない? ……えーと、ほら。雷危ないからさ」


     空はまだ光り続けているし、雷鳴も止まない。この中一人で帰るのは結構怖いので、私は二つ返事で頷いた。雨はどうやら、夜には収まるらしい。
     頷く私に、美咲さんが良かった、と眉を下げて笑った。もしかして美咲さんも雷が怖かったのかな、なんて。
     二人で進路を変更。駅までの道を逸れて、ファミレスへ向かっていく。食べ物の好みも似てるねって笑い合うのは、このもう少し後の話だ。




    「———でさ、公園で偶然また薫さんと美咲さんに会って! ギターの練習見てもらった後にジュース奢ってもらって、ライブの話聞いたんだよね。いやー、やっぱハロハピ超ヤバいわ」

    「……わ、私だって! この間美咲さんとお話しして、一緒にお茶してお喋りだってしたんだから!」

    「おー……、シロは何を張り合ってるワケ?」
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