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    よあけな

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    よあけな

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    半ズボン大使あさひこさんが書かれた「お裁縫をしている譲介」の横顔が美しくて、この横顔を見ててほしいな~と勢いで書き綴ったツイートのまとめです。多少手直してます。譲テツタグですが譲テツ未満の譲&テツ話です。

    #譲テツ
    #K2

    あたたかな部屋「今時、雑巾を手縫いで仕上げて来いなんて遅れてやがる」
    とあの人は言った。雑巾なんてそこいらのコンビニでも買えるだろうと鼻で笑う。
    僕もそうだとは思う。
    昔の家庭科といえば料理に裁縫、掃除だったようだけど、最近は家族のライフステージなんかも考慮した授業が行われている。
    家族。
    父子であり母子であり祖父母のみであったりと家庭のありようは多種多様で。多様性の中でこそ人は育つものだと教師は言ったが、両親が揃っていてたまに遊びに来る程度の祖父母とは別居、という条件が揃っている子供の、なんと恵まれている事だろうか。少なくとも一人で夕飯を作る侘しさも知らず。アルバイトに明け暮れて自分の小遣いを得て満足する。子供が得る小遣い程度じゃ「子供自身」さえ暮らしていけないのも知らないだろう。いや知っているかな。どうだろう、僕にはわからない。
    雑巾を縫う、あなたが言う通りお遊びの範疇ですよ、そう言おうとして止めた。そのくらい解っている。
    「要らない布が無いかだぁ?」
    黒いタンクトップの下から手を入れて欠伸あくびをする彼は、洗濯済のタオルを入れておく棚の奥からぼろ布を取り出した。
    ずいぶん使い古されたタオルだった。
    毛並みはぺしゃんこ、穴まで空いて。
    「ライナスの毛布」
    「え」
    「ピーナツって知らねえか、いや知らなきゃ知らねえでどうでもいいが」
    と放って渡されたバスタオルは色褪せていた。
    ライナスの毛布。
    どこかで聞いたような名前だ。
    「お前があさひ学園で使ってたタオルだ、覚えてねえのか」
    チッと舌打ちをして彼はその場を去る。
    枕カバーの代わりにバスタオルを巻いて使っていたのは思い出した。しかし穴が空くまで使っていたのだろうか。柔軟剤も何もかも効かなくなるほど僕はこのタオルを使っていたようだった。それを雑巾にしても良いと言う。僕だって使っていた記憶など無いのだから雑巾にしたっていいだろう、そう思っていた。

    穴が空くまで酷使されたタオルには涎と涙の痕がこびりついていた。悔しさから出た涙も拭ってくれていたんだ、そういえば。寂しさや悲しさや切なさや、そういったものを全て染み込ませて、噛んで、引っ張って、抱きしめて。
    堪えていたものが溢れそうになったものだから、雑巾にしようとしていたそれを手に掴んだ。
    「……おい何してやがる」
    「穴をつくろってやろうかと」
    リビングにあった裁縫箱を取り出した。どうやれば穴を繕えるのかわからないけど、穴を埋めてやりたい。
    木綿糸を取って舌の先で濡らした。濡らした糸をぬい針に通す。
    「雑巾にはしねえのか」
    「……何か別な布を探します」
    「へえ、結構なこって」
    ソファに寝転ぶ彼の横でバスタオルを縫う。
    欠伸をしながら、しかし時々こちらの様子を見ているようだった。あなたに心配されるほどの腕前じゃないですよ。そんなにハラハラした顔で見なくたって、指に針を刺すような真似なんてしませんから。
    ──空いた穴は簡単には埋まらない。

    急場しのぎの、よくわからない関係だった。
    なんと言えばいいのかわからなかった。
    「お前もいつかは一人暮らしを始めりゃいいさ」
    と、家庭科の課題ノートに書いた適当な人生プランを見ながら彼は言った。その中には彼が八十歳まで生きるというプランもあったが「現実的じゃねぇ」と✕を書かれた。
    いつかはこの部屋から巣立ち別れゆくのだろうとぼんやり考えたその時にふと涙が出た。
    たったの二年、一緒に過ごしただけなのに。
    何の繋がりも無い赤の他人同士が。
    「まだ終わらねえのか」
    暫く僕の横顔を見ていた彼が唸った。
    「こういう穴って、簡単に埋まらないんですね」
    「それだけボロボロになってりゃ埋まるもんも埋まらねえよ」
    「そうですね」
    空いた穴は簡単には埋まらない。
    捨ててしまえと言われたら捨てるだろう。元々このタオルの事さえ忘れていたのだから。何故穴を埋めようとしているか、それはもう判っていた。自分とこの布切れを重ねていた。穴が空いてしまった傷跡を縫って元に戻したい。
    一時間ほど苦戦してようやくタオルの穴は埋まった。額から数滴の汗が落ちる。
    「コーヒー、飲むだろ」
    ソファから立ち上がった彼は頭をかきながらキッチンへと移動する。
    ヤカンから沸き立つ蒸気の煙、挽いたコーヒー豆の香り、床を引きずる杖先の音。
    「ああ、僕が運びますから」

    玉結びにした糸を切り、ローテーブルの上にバスタオルを置いた僕は二つのコーヒーを運んだ。


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