海獣のバラード~この果て~旭さんは大きな仕事を任されたり、小さな仕事で苦戦したり、時々ぼんやりしながら一生懸命働いていた。その時々というのは、多分自分達と同じ顔をした、あの親子のことを思っているんだろう。それは俺も同じで、この一年でふたつの国をゆっくり回ったけれど、海を見かける度にあの親子や先輩と同じ顔をしたふたりを思い出した。
あの旅は、旭さんとの生活を変えた大事件だった。結局誰にもあの旅のことは話していない。しばらくは、旭さん自身も俺もあの親子の話をすることを控えていたような気がする。信じているけれど、その後がどうなったのか、やはり心の底で怯えていたんだろうと思う。
「元気かな」って呟いて、「きっとめっちゃ育ってますよ」とか話したり、「早く夏になるといいね」って言って自分達と同じ顔をした海獣達を信じることにおさまった。
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