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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    okeano413

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    マレマリ エンドロールの向こう側
    捏造オブ捏造

    ##マレマリ

    2022.03.22

     目覚めるのは億劫だ。誰とも話すことはないし、わざわざ水に降りて世界を見て回ってやる気力もない。もう、守るものなどとっくにない。そんな力も持っていない。
     どうせ、無為な時間を過ごすだけだ。そう思っているのに体は目覚めたがる。眠りなんか、いらなかった。目覚めの瞬間も必要ないのに。閉じるのをやめたまぶたが空気をゆっくりと受け入れる。どうせ、終われないのなら。諦めて、遠い、遠い、かつてめぐった海を眺めることにした。
     小さなプロメテウスに重力などあってないようなものだ。閉じ込められていた、岩戸を模した赤い石を蹴って浮かび上がる。僕の帰る場所などとっくに失った、いつかなら故郷と呼べたかもしれない星が、はるか向こうで青々ときらめいている。
     あの場所のつめたさを知っている。陽射しのあたたかいことを知っている。未練がましく覚えている。甲板でぼんやりと揺られながら、地球の熱をつぶさに味わう肉体を呼ぶ声があった事も。
    「マレスペロ」
     そう、ちょうど、こんな声だった。人間がよく響かせた、おそれでも、怒りでも、憎しみでもない声で僕を呼ぶのは――
    「……マリス?」
    「おはよう。ひさしぶりだね」
     逆さ向きに濡れ羽が揺れる。宇宙のびろうどには馴染まない不可思議な色。闇の中にあって見失わない色の。
    「……どうして……」
    「そろそろ目覚める頃と思ってね。君に会いに来たんだよ」
     ない足場を蹴りながら翻ったマリスとまともに目が合う。あわれむでもなく視線を向けるマリスは、思えば誰よりも優しい瞳の持ち主だろう。僕になど向けるべきじゃあないもの。彼の助けたかった、ただ一人の少女にだけ注ぐべきもの。
    「マレスペロにはまだ大きいな。用意がないから、今はコートで我慢してくれる?」
     掛けられた布はやわらかくくたびれている。あれから何年が過ぎたのだろう。目覚めるつもりなどなかったから、外の様子など探らなかった。
     彼の、夕陽のような目に見つめられると、心の奥底を握りつぶされたかのような錯覚に陥ってしまう。苦しい。形成されていないはずの心臓が波立つのをなだめたくって胸を撫でる。砂だか、長年の酷使で毛羽立つのか、ざらついた布が指に巻き込まれて歪んで、夢ではないのだと示される。あたたかい気がするのは、これは、マリスの熱だろうか。
    「……僕のことなんか、忘れて過ごせばよかったのに」
     共に、宙へ浮かぶ彼の肉体は、離れた日からわずかも成長していない。それはそうだ。彼はソルダートなのだから。ケイオスの力を受け入れた、唯一人間の意思を持つ存在。
     ……どうして変わらずにいるのだろう。人に戻れたはずなのに。……アルタイルの祝福を受け入れず、僕たちの呪縛を捨てすらせずに、わざわざ、こんなところにまで?
     会いに来たと、自ら言った。皮肉や冗談で、わざわざ星を越えはしないだろう。そうさせる価値など僕にはない。なにを求めて来たと言う。
    「本当に忘れたら、君、泣くじゃない。それで誰にも明かさないで、一人きりで自分を傷付けてしまう。話の合う存在がそうして擦り切れていくのはもったいないでしょ」
    「人をなんだと思ってるんだい」
    「迷子かな。僕もそうだった」
    「……物好きだな。そんなに、僕の力は魅力だった?」
     眠る前なら、少しはましだった力も残滓さえ残っていない。もう、すべて使い果たしてしまった。僕に残されたのは、記憶と、与えられるままに名乗り上げた名前だけ。
     笑えるほど無様な終わりだった。丸め込まれて眠るなど赤子もかくやだろう。存在を巡らせる理由もなく、爪痕さえ与えられず、生ぬるい温情で眠りにつかされた。無様で、惨めで、滑稽だ。
    「残念だけれど、君の求めるものはもうここにはないよ。生まれたてのコアなど餌にもならない。おかしなことに巻き込まれる前に帰ったら?」
     マリスならばきっともう新しい居場所があるだろう。僕は一人でいい。もう、一人がいい。失う痛みなどもう二度とごめんだった。だから目覚めたくなどなかったのに。
    「帰って欲しいの? こんな、星を眺めるだけのさみしい場所に、一人きりでいるつもり?」
    「……そうだよ。使えない僕なんか、君の目的にそわないでしょう」
    「それじゃ、そのコートも必要ない?」
    「ないさ。誰の前に行くつもりもないんだから」
     一度、握りしめて、脱ぎ剥がしたコートを突き付ける。受け止めようと、両手のひらをそっと向けられて……なにか、知らない、忘れたはずの、思いが首をもたげる。手を伸ばしたなら、今にも触れられる場所に彼はいる。
    「この服、結構気に入ってるんだよ。何年着倒したかな」
    「そう。人間の技術に感謝することだね」
    「マレスペロだって気に入っていたでしょう。セレノアに勧めたのに断られて、残念そうにしてたね」
    「そんなの、忘れたさ」
    「僕は覚えてるよ。だから会いに来た。マレスペロを迎えに来たんだ」
     よく、喋るな。まだ、ここにいるというなら、一度くらいは。触れたことのないマリスの、温度を知るくらいは。
    「……懐柔したって君に利はないと言っただろう」
     おそるおそると、手のひらを持ち上げる。もう少し。あと少しで腕に届く。
     やめろ。触れようなんかするな。誰のことも覚えていたくない。守れないものを抱えたくない。震えるのはきっと、ぬくもりを与えられたせいで寒いのだと勘違いしているだけだ。伸ばせたくせに引っ込められない拳を掴む。
    「留まっても遺物の相手をするだけだ。展望のない僕に構う暇があるなら、君を慕う誰ぞに気を向けてやるといい」
     寒くない。さみしくない。最初から一人ならば傷付くわけがない。触れてみたい。彼の熱が欲しい。
     今ならまだ離れられる。触れぬまま冷たいばかりの岩戸でもう一度、次は自分の意思で眠ればいい。話す間に離れてしまった結晶へ振り向こうとしたのに。
    「ねえ、マレスペロ」
     そう、行きつ戻りつふらふらさまよう手を、あっさりと捕らえられている。触れているのに思考が見えない。なにを考えてここにいる。
     マリスの手はこんなに大きかったっけ。僕よりも小さかったはずの、僕よりずっと戦い方を知っている硬い手。僕を引き止めるほどの心を、向けられていたのだっけ。
    「さっきから、僕の目的をどうして勝手に決めるわけ?」
     決めているんじゃない。推測しているだけだ。
    「離して……」
    「僕と、君の繋がりはあの日断たれたよね。だからもう君の命令を聞く理由もないわけだ」
    「マリス、ねえ、痛いよ……」
    「生きている証だよね。マレスペロの命が今もここにある。僕の見たかったものだ。君に触れたくて、ケイオスたちにあとを頼んできたんだよ」
     振り払って縮こまろうとする体を抱きすくめられる。マリスってこんなに大きかったっけ。僕を包むほど、強い存在だったっけ。
    「ここに来たのは、僕の意思だ」
    「……僕は、君といていいの」
    「僕が、君といたいんだよ」
     なにを言われたって振りほどけばいい。ぬくもりを知ったって僕は一人になれる。誰を守らずともここにいればいい。そう、思っていたのに。
    「帰ろう、僕たちの船へ。君の好きな夕陽を、いちばんきれいに眺められる星へ」
     もう、無理だ。戯れに付けた呼び名を、真実僕のものとして認めてくれるマリスがいることを知ってしまった。迎えに来て、くれるひとを、みつけてしまった。
    「……もう一度、呼んでくれる?」
    「マレスペロ。ミコト。僕のそばにいてくれる?」
     返事をしなくちゃ。顔を上げて、呼ばなくちゃ。どんな顔で僕を見つめてくれているかを、知るために。
    「……うん。君と、一緒にいたい……」
     背中に回された腕が少しゆるむ。代わりに僕からも布を握れば、二人で青の星へ落ちてゆく。
    「少し、痛いかもしれないから、目をつむっていてね。眠ってしまっても、ちゃんと僕が起こすから」
    「ん……」
     岩戸はここへ置いていこう。次の目覚めは必要ない。僕の痛みを、誰かに引き継ぎたくはないから。僕を呼んでくれる人がいる。もう、それだけでいい。
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