2023.02.14
「バレンタインチョコですか」
「うん。なんで敬語?」
「いや別に。一騎に教わればいいんじゃないの」
「だめー。一騎くんは翔子が予約済みなの。翔子と交換するチョコなんだから、同じ人に教わるわけにはいかないじゃない」
「?? そっか」
「それに、春日井くんも彼にあげるんでしょ? ついでに監督すると思って、ねっ、お願い!」
「いや、俺、手作りするなんて一言も……ていうか、なんであげるって知ってる?」
「いいのを渡すんだって張り切ってたよ。既製品もおいしいけど、春日井くんが愛情込めて渡したら、もっと喜んでくれるんじゃないかなあ」
「ええ? あいつとそんな話したの?」
「うん。一緒に作らない? って誘ったら、春日井くんの方が適任って教えてくれたの。信頼されてるねえ」
(重荷を押し付けられたって言うんじゃ……)
「ねっ、そっちの材料費も出すから! おねがい!」
「……はあ。対価なんて取らないよ。お役に立てるか分からないけど、俺でよければ手伝うよ」
「ほんと! じゃあ、買い出しからお願いしてもいいかな? なにを買えばいいかも検討つかなくってさ」
「……低糖質で作るなら、ケーキとかマフィンとか……どっちがいい?」
「ケーキだったら二人で食べられるけど……」
「遠見にはマフィンがおすすめかな! ほら、多少型くずれしたってかわいいし」
「それ、どういう意味?」
「別に」
「ええ。まあいいや。よろしくお願いしますね、先生」
「承りました。頑張ろうな、俺」
「ちょっと?」
「あはは。遠見も頑張ろうな」
ver.操
「で、遠見先生と作ったチョコがこちら」
「タルトだ! きれいだね」
「一緒に飾り付けようかとも思ったんだけど。完成形であげたかったから、今回はおあずけ」
「このいちごなあに? つやつやしてる」
「ナパージュってやつ。溶かしたジュレを塗ってるんだよ。こうすると断面がきれいなまま飾れるから。嬉しい?」
「うん、うれしい。ね、もう食べていい?」
「その前に、来主からのチョコは?」
「普通のチョコクッキー。溶かして混ぜて焼いたやつ。うれしい?」
「うん。今年もありがとう」
「ねえ、甲洋」
「ん?」
「来月はさ、二人で作らない? ホワイトチョコとかミルクチョコで味付け変えた、おんなじの」
「いいね。どんなのにしようか」
「食べさせあえるやつ?」
「フルーツは? トッピングはなにがいい?」
「お砂糖菓子のせたいなあ。かわいいやつがいい」
「ああ、いいね。探してみるから、理由も教えてもらえる?」
「かわいいもの食べてる甲洋が見たいから」
「……それ、嬉しいの?」
「いいからお願いしてるの。だめ?」
「いいけど……ええ、じゃあ、トッピングも来主が選ぶ……?」
「うん! まっかせて、すっごくかわいいのを見つけてくるから!」
「お、おてやわらかに……」
ver.皆城
「で、遠見と作ったチョコがこちらになります」
「ガトーショコラか? こちらは……」
「そう。甘めに仕上げたクリームとどうぞ。そっちは遠見のお手本に作ったマフィン。両方食べていいよ」
「ありがとう。おいしそうだ」
「どういたしまして。よく味わってくれよ」
「言われずとも」
「にしても、迷ったからってこんなに買ってくる? デパートの人、びっくりしてただろ」
「大層喜んでいた。種類毎の説明も興味深かったぞ」
「マドレーヌ、マカロン、チョコキャンディ。へえ、色々考えるもんだな」
「風味を活かせるよう、配合など独自に開発されているらしい。企業努力の賜物だ」
「たったの一日の為に、よく考えるよな。ところでさ」
「うん?」
「マロングラッセの意味も聞いたの?」
「ああ、うん。知っていたのか」
「もともと作ろうと思ってたからね。手伝いながらだから、同じ焼き物に軌道修正したんだけど」
「そうか。驚かせるつもりで選んだんだが、残念だ」
「よく言う。お返し、楽しみにしてて」
「指輪のつもりなら、別の機会に頼む」
「まだ渡さないけど。どうして?」
「楽しみは多い方がいいからな」
「そうだね。サプライズ、頑張るよ」