また会える日の約束を「いつまで泣いてるつもりだい」
カノンは縮こまった背中に向かって言った。マトリフは里の隅で膝を抱えている。マトリフはカノンよりいくつか歳上なのだが、修行が上手くいかないとすぐに逃げ出す。そうして誰も来ない里のはずれで膝を抱えて泣くのだ。
「お父様はもう怒ってないって」
カノンの父であり師でもあるバルゴートは厳しい。マトリフは特にバルゴートに見込まれていることもあって、特に厳しく修行をつけられていた。
「師匠はおれのことが嫌いなんだよ」
グズグズと鼻を鳴らしながらマトリフは言う。その情けない姿にカノンは我慢の限界だった。
カノンはマトリフの隣に座るとずいと顔を寄せる。マトリフはぎょっとして身を引いた。
「わたしは泣き言を言う奴が嫌い」
カノンの迫力のある声に、マトリフはグッと息を詰めた。鼻からは鼻水が垂れる。
「わたしに嫌われてもいいの?」
マトリフは小さく首を振る。目尻にはじわりと涙が滲んでいた。
カノンは懐からハンカチを出すとマトリフの顔めがけて投げた。
「いくよ」
カノンは返事も聞かずに立ち上がって歩き出す。マトリフは顔を拭くとカノンの後についていった。
それからマトリフは泣くのも弱音を吐くのもやめた。逃げ出しそうになるとカノンの言葉を思い出した。嫌われたくない一心で修行にも励んだ。そうして師匠にも認められるほど強くなっていった。
次にマトリフが泣いたのはカノンに置いていかれたときだった。