Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌠 🐣 🍩 💕
    POIPOI 190

    なりひさ

    ☆quiet follow

    マトとパ国王

    ここだけの話「ちょっといいかな、マトリフ」
     柔らかな声音にマトリフは顔を上げる。パプニカ国王が開けたままのドアの前に立っていた。その真面目な表情に、マトリフは読んでいた魔導書を閉じる。
    「わざわざ国王が来るなよ。呼べばオレが行く」
     ここはマトリフにあてがわれた部屋で、国王の居室からは遠い。普通であれば国王自らが来る場所ではなかった。
    「まあまあ、いいじゃないか」
     言いながら国王は部屋に入ると置かれた椅子に腰掛けた。マトリフは組んでいた脚を下ろして姿勢を正す。すると国王はマトリフに身を寄せて声の調子を下げた。
    「ここだけの話にしてほしいのだが」
     その前置きに、重大な話なのだとマトリフは直感する。国王の相談役となってまだ日は浅く、相談らしい相談は受けたことがなかった。ようやく見定めの期間を終えたということだろうか。
    「これを見てほしい」
     そう言って国王は机に幾つかの布地を並べた。それがパプニカ産の布地であると一目でわかる。だが輸出に向くようなきらびやかな物ではなく、素朴で染められてすらいない。
    「産衣にはどの布がいいと思う?」
     マトリフは思わず真顔でパプニカ国王を見返した。一国の王が真剣な顔で相談に来たから何事かと思えば、産衣に使う布地の相談とは。
    「……妃のご懐妊かよ。おめでとさん」
     それを遠回しに伝えられたのかと思ってマトリフは祝いの言葉を伝える。そんな知らせは正式に聞いていないから、まだ安定期にすら入ってないのかもしれない。
    「いや、妃はまだ妊娠はしてないんだけど」
     隙のない笑みを浮かべながら国王が言う。マトリフは口の端をぴくりと震わせた。
    「じゃあ他の王族の誰かか?」
    「いいや。いずれ生まれる私の子のために。気が早いのだけど」
    「おいおい、気が早いなんてもんじゃねえぞ。産衣なんざ妃の腹が大きくなってからでも遅くねえだろ」
     そうなんだけど、と言いながら国王は布地の手触りを確かめるように触れている。この国王は明るく朗らかと言えば聞こえはいいが、どこか呑気というか、楽しいこと好きなところがある。この前の祝賀会でも一番にはしゃいでいた。
    「そんなことはオレじゃなくて妃と相談しろよ」
    「だって私の子に加護の儀式をするのはマトリフだろう。そのときに着せる産衣なんだから、やはりマトリフに選んでもらったほうが良いかと思ってね」
    「精霊の加護の儀式か? あんなのやったことねえぞ」
     それは古くから伝わる儀式で、生まれたばかりの子に賢者が加護を施すものだ。多くの場合は僧侶系の賢者がその儀式を執り行う。マトリフは儀式のことは知っていても、実際に行ったことはない。
    「心配ない。生まれるのはまだ先だから、練習する時間はたっぷりある」
    「オレはやるなんて言ってねえんだよ」
     マトリフの言葉を聞いても国王は笑みを崩さない。マトリフが頷くまで説得を続けるつもりだ。マトリフが相談役になったのも、国王の説得とこの笑みの圧に負けたからだ。
    「……考えとく」
     マトリフが仕方なく言うと、国王はマトリフの手を両手で包んだ。
    「ありがとうマトリフ。君なら快諾してくれると思っていたよ。さあ産衣の布も選んで。私はこの肌触りの良いものがいいと思うのだけど」
     その勢いにマトリフは身を引きながらも、国王の選んだ布地を見た。
    「それでいいんじゃねえの。精霊は真っ白いもんが好きだから、できるだけ布地も白いほうがいい」
    「ではこれで決定だ!」
     国王は並べた布地を集めてマトリフに礼を言う。マトリフは苦笑して国王を見つめた。誠実さと勢いを併せ持った青年は、その人柄から国民にも好かれている。そして自分も絆されているとマトリフは思った。どうしてか放っておけないと思ってしまう。
    「そうだ、一緒にお茶でもいかがかなマトリフ。ついでに先ほど上がってきた嘆願書を読んでほしいのだけど」
    「逆だよ逆。そっちが本題だろうが」
     マトリフは椅子から立ち上がる。すっかりこの国王のペースに巻き込まれているが、それが不思議と嫌ではなかった。この国のために働くことすら、楽しいと思える。
     ふと、先に逝ってしまった友人のことが頭を過ぎる。少々強引で暖かな手を持っていた青年は、もういない。
    「どうした、マトリフ」
     さあ行こう、と国王はドアを開けて待っている。ロカと国王では全く似ていないが、その影を誰かに求めているのかもしれない。差し出される手を掴みたくなる。
    「わかったよ」
     大戦を終えて残った僅かな命を、この国王のために使いたいとマトリフは思った。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💕💕💕🙏🙏💞💞💞👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    kisaragi_hotaru

    DONE無自覚のままであろうとした両片想いガンマトが自覚させられるお話。欠損描写がありますが最終的には治りますけれど苦手な方はご注意くださいませ。謎時空なので深く突っ込んではいけない系です。魔王は祈りの間にて引きこもり中です。
     乱戦状態だった。一人ずつ探して回復していったのでは間に合わない。マトリフは冷静さを保ちながら素早く周囲を見回して、次いで傍らでモンスターを殴り飛ばしたブロキーナに視線を向ける。最近習得したばかりの回復呪文を使うにしても発動中は無防備になってしまう。詠唱のための時間稼ぎも必要だ。
     「よお大将! 全員を一気に回復させてやっからちょっくらザコどもの相手を頼むぜ」
     「いいよん」
     モンスターの大群相手にしながらもブロキーナは軽いノリで請け負った。
     そんな二人の会話を聞いていた一体のモンスターが不満をありありと孕んだ声色でもって割り込んだ。
     「ほう。君の言うザコとは私のことも含まれているのかな?」
     トロルの群れの向こう側から青色の肌をしたさらに巨大な体躯が現れた。眼鏡を中指の鋭利な爪で押し込んで歩み寄ってくるその理知的な動作とは裏腹に額には幾つもの血管が盛り上がっていた。
    4949