このサプライズ、成功か失敗か?フラッシュモブ!そうだ、思い出した!そんな名前だった!
高校の授業中き突然天啓が降りて、思わず立ち上がる。教師とクラスメイトたちが呆れた顔でこちらを見ていた。
へへ、と苦笑いで誤魔化し席に着く。
(この時代ではまだメジャーじゃないけど…むしろだからこそできる!!)
フラッシュモブ──そこらを歩いている人間が突然踊り出して、最終的になんかプロポーズとかするアレである。
アラサーとして生きていた時代にはもうオワコン扱いされていたが、まだ00年代。
今やれば最先端だ。
これしかない、と確信してノートに熱心に板書を取るフリをして、『MTYくんサプライズ大作戦!!』とタイトルを書き出した。
万が一前の席の千冬が振り返ってもすぐにはわからないよう対象には伏せ字を使っている。
目標…MTYくんの誕生日を祝って告白する!
日時…6/12
場所…未定
方法…フラッシュモブでお祝いした後、バラの花束を渡して告白
必要なもの…花束、ダンスができる人
うーん、こうして書き出してみるとなんかフワフワしてるな。
そもそもフラッシュモブって人が沢山必要だし。
未来ではSNSとか、専門の業者に頼むんだろうけど、金もないしそんなことできない。
(皆に頼んでみる?とか?)
東卍も解散し、各々がそれぞれの夢へ向かう中、皆を集めるのはなかなかに大変だ。
とはいえ、三ツ谷の誕生日を祝いたいと言えばそこそこの人数は集まる気がする。
八戒とか絶対来るし。
ただなぁ。祝うだけじゃなくて告白までするとなると知人だらけの視線はキツイ。
フラッシュモブでプロポーズしその場ではOKされるも、後でこっそり断られた、なんて話も聞いたことがある。
うーん、と頭を抱えながら消しゴムを使って計画を修正した。
目標…MTYくんの誕生日を祝う
日時…6/12
場所…未定(武蔵神社orオレん家?)
方法…フラッシュモブでびっくりさせる
必要なもの…協力者(MTY君と仲がいい人?)
(うん!これただのサプライズ誕生会だな!?)
やはりフラッシュモブなんて無理だったか。
なんとなくいい雰囲気だけれど、今ひとつキッカケがない2人の関係を進めるにはいいと思ったのだけれど。
ちぇ、と鼻と唇の間に使っていたシャーペンを乗せて挟んだ。
フラッシュモブは無理だとしても、ちょっとしたサプライズくらいはしたい。
何せ好きな人の誕生日なので。
何故三ツ谷を好きになったのか──それはここでは割愛するが、武道の片思いももう1年近くなる。
この気持ちを自覚してからは、積極的にアプローチをしてきた。
映画に誘ってみたり、服装の相談をしてみたり。
初めの頃はオレと?2人で?なんて言っていた三ツ谷だが、最近は三ツ谷からも武道を誘ってくれるようになった。
三ツ谷は男からも女からもモテるので、長期戦を覚悟していたのだが、最近はコレ脈アリなんじゃないか?と思っている。
武道も一度はアラサーまで経験した身。
自分が調子に乗りやすいのは自覚しているので、ちょっと優しいとかちょっと目が合ったくらいで脈アリなんて言わない。
確信したのは先週来た三ツ谷からのメールである。
『オレの誕生日、タケミっちが祝ってくれるか?』
(これで脈なしだったらウソだろ!!)
携帯を机の下でこっそりと開いて、保護していた三ツ谷からのメールを見返す。
へへ、と思わずニヤけていると前の席の千冬がこちらを振り返ってじーっと見つめていた。
「もう授業終わってんぞ」
「え!?マジで!?」
慌ててノートを閉じようとすると、待った、と掌を差し込まれる。
「何だコレ……あー、三ツ谷クンの誕生日?」
「え、何でわかったんだ?」
「そりゃわかるわ、MTYて」
「なになに?タカちゃんの話?」
(告白とか消してて良かったぁ!)
付き合ったらきちんと報告しようとは思うが、万が一フラれた時のことを思えば計画はバレたくない。
二重線ではなく消しゴムで書き換えていた自分に拍手をした。
2人が話しているのを聞いてか、離れた席からいそいそと八戒もやってくる。
「そーそー。タケミっちが三ツ谷君の誕生会すんだって」
「え!ずっりー!オレも呼べよ!」
「場地さんに、マイキー君とドラケン君…創設メンバーは外せないとして、人多くなりそうだな。タケミっちん家じゃ狭くねぇ?外は暑いからヤダ」
「ウチ使う?パーティルームあるし。柚葉に聞いてみる」
「マジで!?すげーいいじゃん」
「お前ら勝手に話すすめんなよ!」
どんどんとノートに書き足されていくのを慌てて止める。
これではただの集会になってしまう。
まあ、2人でお祝いして♡と言われたわけではないのでもしかしたら正しいのかもしれないけれど。
集会になったら告白とかは絶対無理だなぁ。
「タケミっち、フラッシュモブって何?」
「あ?アー…なんつーかこう、さっきまで普通にしてた人たちが急に踊り出してプロポーズとかするやつ…」
「それめっちゃいいじゃん!」
ジェスチャーを入れながら説明すると、千冬が興奮気味に立ち上がる。
そうだ、コイツこういうの好きなんだよな。
「え、ダンスとかできねぇよ」
「そこは皆で練習してさ!簡単なやつならすぐできんだろ」
「マイキーくんとか付き合ってくれっかなぁ?」
「そこは相棒が頼めよ!で、マイキーくんが納得したら大体のやつは納得するだろ。場地さんにはオレが言うし。あ、八戒は大寿クンな」
「ハ?オレ殺されるってこと?」
千冬はノリノリで、まずはオレらが踊れねぇと意味ねぇから!と放課後に早速練習することになった。
最初に思い描いていたものと少し…いや、かなーり違うものになりそうで白目を剥く。
渋々マイキー君に電話をすると、なにそれウケる、と意外にもあっさり了承されたのだった。
ーーーーー
そしていよいよ当日だ。
三ツ谷が来る前に集まったメンバーで最終チェックを行う。
「──、で、最後のポーズでそのまま止まってください。そしたらオレがケーキを出して三ツ谷くん、って声かけるんで、皆でハッピーバースデー!でお願いします!」
皆が軽く頷く中で、1人だけ不思議そうにこちらを見つめている者がいる。
「場地くん、なんスか?わかんないなら今聞いてください」
タイムリープの末、幼馴染となり気安く話すことができるようになった場地に問いかければ、あのヨォ、と口を開いた。
「タケミチがプロポーズするって聞いたから来たんだけどヨォ、それはいつすんだよ?」
「プププロポーズ!?!?誰が!誰に!」
「タケミチが三ツ谷にだろうが」
「はぁっ!?」
フラッシュモブってプロポーズのためのもんなんだろ?問いかけられた千冬が、ああ!、と納得のいった顔をする。
お前、ちゃんと説明しろ。
「プロポーズっつーからンな面倒なこと付き合ってやったのに。なんだよ、ただの誕生会かよ」
「そりゃプロポーズなんてあり得ないでしょ!オレら付き合ってすらいねえのに!」
「ア?付き合ってねぇの?」
場地と武道の会話を聞いて、あたりが不自然にざわついた。ウソ、ホント?なんて声が聞こえてくる。
皆が顔を見合わせてゴニョゴニョと言い合う様子になんだか武道が不安になってきた。
「何スか!?皆して!」
「いや……何でもねぇワ。ほら、そろそろ三ツ谷来るから配置つけ」
顔色を悪くしたドラケンが皆に指示をし、各々首を捻りながらもポジションについた。
武道もなんだか釈然としないが、ここまで大掛かりなイベントを始めてしまった主として失敗するわけにはいかない。
頭の中で段取りを確認しながら三ツ谷を迎えに八戒の家を出た。
今日の流れとしては、武道が三ツ谷を迎えに行き、八戒宅へ連れていく。
地下のパーティルームに入ると、固まっているメンバーに出迎えられ、武道も固まる。
三ツ谷が動揺したところで音楽スタート、ダンスを披露して最後のポーズで固まり、武道がケーキを差し出して、ハッピーバースデー!で完了だ。フラッシュモブとはなんだか別物になったが、サプライズ誕生会としてはなかなか手が込んでいるのではないだろうか。
(ま、告白はまた2人きりの時にすればいいか!)
今日は全力で三ツ谷の誕生日を皆で祝おう!と三ツ谷と待ち合わせしている近所の公園へと走り出した。
ーーーーーーーー
「三ツ谷くん!」
「お、時間通りに来たな」
「そりゃそうっすよ!」
三ツ谷は見たことのない服を着て、公園入り口のポールの上に軽く腰掛けていた。
普段はパキッとした色を着ていることが多いが、今日は淡いライムグリーンのシンプルなシャツに細身のパンツを合わせている。
何を着ても似合うなぁ、と見惚れていると、見過ぎ、と苦笑いされた。
えへへ、と誤魔化して八戒宅へと向かう道を進んでいく。
「ん?どこ行くんだ?タケミっちん家じゃねぇの?」
「へ!?あー、八戒ん家、デス」
「何で?」
「いや、オレん家だと入りきらねぇから…」
「入り切らない?」
訝しげに顔を歪める三ツ谷の手を掴んで、歩調を早める。
ここで突っ込まれたら一巻の終わりだ。
とにかく八戒の家に着くまではなんとか誤魔化さないと、と必死だった。
三ツ谷は少し不満気な顔をしたけれど大人しく武道に手を引かれている。
なんとか豪邸の外階段までたどり着き、ピンポン、と軽快な音を鳴らす(これがスタートの合図)
そして預かっていた鍵で扉を開いた。
三ツ谷を無理くり先頭に押し出して、地下の階段へと進んで行く。
三ツ谷はもう何か察したのか落ち着いた様子で階段を下りていた。
扉を開くと、予定通り屈強な男達が筋肉を駆使してぴたりと自由な形で固まっている。
「えっ、何だよコレ」
三ツ谷は半笑いで振り返るが、そこにはもう部屋の中の男達と同じく固まった武道がいるだけである。
とうとう腹を抱えて笑い出したところで、部屋の1番奥にいる八戒がオーディオのスイッチを入れた。
流れる音楽は、数年前に流行したユーロビートだ。
そして踊り出すのはそう、パラパラである。
ブームがほんの数年前だったこともあり、当日に少し練習するだけで簡単に揃えることができた。
とにかく無表情で手を動かす。
最後のフレーズが流れ、全員が同じ決めポーズで止まった。
(よし、決まった…!)
三ツ谷の笑いすぎて苦しそうに引き笑いとなった声だけが部屋に響く中、ダッシュで机の下に隠していたケーキを取り出し、三ツ谷の前に跪く。
「三ツ谷君!ハッピーバー…」
スデー!と叫んだのは武道だけだった。
未だ動きを止めたままの皆を、え?え?と見回していると、皆が一斉に手拍子を始める。
パン、パン、と手拍子が響く中でポカンとしているのは三ツ谷と武道の2人だけだ。
どうすれば…と固まっていると千冬が何かを掲げている。
「げっ!」
掲げていたのは武道が授業中に使っていたノートだ。
計画のページの上から、太いペンで『告白しろ!』と書かれている。
三ツ谷もバッチリそれを見たようで、気まずそうに武道に視線を向けた。
「あ、!の……」
「うん?」
「………すぅ、すっ、好きです!オレと付き合ってください!!」
花束なんてないので、手に持っていたケーキをそのまま三ツ谷に差し出す。
三ツ谷はクスリと笑って、ケーキに乗っていた苺を一つ手に取った。
「オレはもうとっくに付き合ってると思ってたけど?」
そのまま苺がポカンと開いた武道の口に放り込まれたと同時に、わぁッと大きな歓声が上がった。
end