やさしさ「少尉殿……何か、私はお気に触ることをしましたか」
月島は温度のない瞳で鯉登に問いかける。問いかけられた鯉登の目には今まさに燃え上がらんとしている火種が宿っていた。鯉登は月島の胸ぐらを掴む。布が引き攣れる音がした。
「違う、違う、お前は悪くない」
「そうですか」
「月島、私は、どうすればいい」
「どうされたいのですか」
「やさしくしてくれ」
「なら、貴方も私にやさしくしてください」
どうぞと両手を広げた月島の胸の中に鯉登は飛び込んだ。首筋や鎖骨、胸に優しい痛みが走る。傷はひとつもできない。歯が立てられた部分にあたたかい水滴が落ちる。月島は言いようのない愛おしさに身を焦がしていた。
「少尉殿、どうかひどくしてください。私を罰してください」
「そう言われて素直に従う奴がどこにいる。ひどいくらい優しくしてやる」
空が白むまで、ひどい、ひどいと月島は涙も流さずに泣き続けた。