姉弟水入らず 「市香…その、今日はさんきゅな」
「ううん、いいの見つかってよかったね」
そう言って笑いかけるとぷい、と香月は顔を背けた。
今日は一人暮らしを始める香月のために家具や家電を見て回っていたのだ。
「つーか今日、あいついなかったけどいいのかよ」
「尊さんは今日、仕事だし私は前々から休みを申請してたから大丈夫だよ」
「…尊さん、ね」
「香月?」
「別に何でも」
そう言ってまた香月は背を向けた。その様子を不思議に思いつつ私は足を前に向ける。するとあるお店を見つけ思わず立ち止まった。
「市香?何見て…って、ドーナツ屋かよ。お前も結構染まってんな」
「そ、そんな言い方…で、でもこういうのは尊さんは食べないから!」
見ていたドーナツは生ドーナツと銘打たれていて、コーティングされていたり砂糖がかかっていたり果物が乗っていたりといわゆる尊さんが嫌う…手に取らない部類のドーナツだった。ただ、私はそういうものが好きで……、
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