「すげー…」
「首が痛くならないのかい?」
仰け反り見上げる桐ケ谷を心配するように、刑部は首を傾げる。屋根より高いと歌われるが、おそらく地元で一番高い空を泳いでいるのは、刑部の家の鯉のぼりだ。若い衆が飾りつけたのを、さっそく学校帰りに見に来た。
「風吹くとすげーな。ほんと泳いでるみたいだ」
目をキラキラと輝かせて興奮する姿に、刑部は少しの照れと、申し訳なさが立った。彼のようにはしゃいで見せれば、お祖父様たちにも喜んでもらえただろうかと思うが、冷静に検分するのは性分だ。
「兜も出しているよ」
「マジで?見たい!」
いわゆる格好いいものが好きな桐ケ谷は、予想していた通りに飾ってある兜に興奮した。おやつに出された柏餅もたくさん食べて、お腹いっぱいになったのか縁側で眠ってしまっている。側には、新聞紙で作った兜と刀が転がっている。
桐ケ谷が山浦に聞き、二人で作ったものだ。刑部一人なら鯉のぼりや兜をただの飾り物とだけ認識していたし、新聞紙の兜も作ることはなかった。桐ケ谷がいると、刑部の世界が広がっていく。知らなかった驚きや楽しみが、胸を満たしていく。
「君といると飽きないね、晃」
真似するように、桐ケ谷の隣に横になる。縁側で寝るなんて、今までしたことなかったが、やってみると暖かくて気持ちいい。
目線を上げると、桐ケ谷の顔がすぐ側にある。
すぴすぴと眠る桐ケ谷の口元に餡が付いたままなので、それを指で掬って舐めとる。
不思議とさっき食べたよりも、甘い味がした。