サトの日記*623年6月7日
今日は予約がいっぱいでほぼ丸一日出勤。
同じ時間に複数人から指名が入ると大体こんな感じだ。
初回の子もいるみたいだし、明日から気を引き締めていこうか。
*623年7月21日
常連が1人今日でホスト引退宣言。
これで何度目だろうな…結局一週間後には戻ってくるだろうし。
まあ、美味しい酒用意して待っとこう。
なんだかんだ俺もあの子は気に入ってるし。
*623年8月15日
忙しすぎる。
この時期の客は毎年増えるけど、例年にもまして増えた。
足腰持たないし喉枯れるしで、改めてホストって重労働だよなって。心も体も売り物だから仕方ないけど…
それでも俺はトップクラスだからいいものの、下のやつらが心配なのは変わりない。この業界の闇を知って長く続けられるやつに限って嫌な奴だったりするしな…
近いうち、新人等の研修でも見に行くかな。
俺の顔みてビビり倒されるのは、もうだいぶ慣れたしな。
*623年9月8日
最近変な感じがする。
妙に周りの態度が冷たいし、ペナルティ食らってないのに減給してるし、スーツに変な白い粉がついてるし。
まあ、差別とかいじめとかってどこにでもあるし、俺は恨まれること承知で仕事してるからいいけど。
じゃなきゃやってらんねえよ、ホストなんて。
ただ、イケメンなティーンエイジャー達が間違ってもホストなんて喜んで成りたがらないように祈るだけだ。
*623年9月25日
色々信じられん。
10月から隣町のゲイ風俗に出張することになった。
散々女の相手してきた俺が今度は同性愛者の風俗になるという意味わからん展開。全部上からの指示だが。
昨晩行ったバーで常連の女と飲みながらその話をした時に、その女が、俺の出張が終わるまでずっと待っててくれるって言ってくれなきゃ断っていたところだ。
まあ、断ったところで解雇されるがオチだけど…
最近の嫌がらせはもう隠す気もないみたいだし、これもどうせ俺を憎んでのことなんだろうな。
まあいい。知らない世界のことだからな。いい勉強になる。
ともかく文句言わず仕事してれば金になるんだ。
それに、あの子は待っててくれる。
体はどうでもいい。
とにかく耐えて、早くホストに戻ろう。
*623年10月28日
俺は間違っていたかもしれない。
ゲイ風俗は思ったほど甘くなくて、毎日毎日、意味のわからない指名にグッとこらえるしかできない。
しかも大抵の指名がセックス。いつも掘られる側だ。
こんなこと考えられなかった。
初日から後ろの穴を開発されるとか。
今じゃもうだいぶ慣れきって体使ってるが…
分かったのは、ゲイには頭のおかしい奴が多い。
コスプレセックス、SM、言葉責め、生クリーム…
思い出しただけでも吐き気がする。
ただ、やると決めたのは俺だ。今更何を言ったって、やると決めたからにはやりきるしかない。
ともかく汗臭い男の匂いに、耐えることしか出来ねえんだよな。
早く出張が終わるといいんだが。
早く常連の女たちの顔が見たい。
この過去がなければこんなのすぐに辞めてる。
生きてくには仕方ないのかもしれないと割り切るしかない。
*623年12月20日
俺は騙されたらしい。
ゲイ風俗に出張させられて体をやけに使わされたのも、2ヶ月も出張してるのに元のホストからなんの音沙汰もないのも。
全部全部、アイツらの罠だった。
俺で解消しないとやっていけない男らができて、いよいよマズいとホストに連絡してみれば、もう俺の籍はいつの間にか消し去られてて。
意味がわからねえからホストに行ってみれば、俺の常連の女らは俺に見向きもせず。それどころか鼻で笑いやがって。
俺を待つと言ってくれた女すら
「このホモ」と一言吐き捨てただけで。
というか、ゲイに貸した体を、どこの女が欲しがるというのだろう。
きっと誰も欲しがらない。
今後も俺は、ホストではなくゲイ風俗の駒となり、毎日毎日、ボロボロになるまで体を使われる人生を歩むのか。
くそ。くそ、くそ、なんで。
なんで俺が、ホストの頂点だった俺が。
誰にも迷惑かけないようにしてきた俺が。
こんな形で。
*624年4月30日
3ヶ月前くらいに、風俗を辞めた。
んで少し離れたところに引っ越した。
金を稼ぐため、就活して、落ちてを繰り返して。
今は近場の工場で働いてる。パートだけど。
単純作業。口も聞かずに、手を動かすだけ。
丸一日ずっと。
終わったら酒を飲んで、寝て。
この前、3日何も食わなくても食欲が出ないから変だと思って病院に行ってみた。
俺は、鬱病とかいう病気になっているらしい。
本当かは知らないが。
それでも
前よりマシだ。前よりずっと。
*624年7月19日
俺の頭はおかしくなったのかもしれない。
変なものが見えるようになった。
男っぽいそいつは自分を悪魔と名乗って、俺を守るとか、俺が心配とか意味のわからないことを抜かしやがる。
俺よりも背が高くて体格がいい癖に、女みてえな腹立つ顔。
俺はガムシャラになってそいつをぶち犯してやった。
気分が良かった。
あの日、俺を掘ってきた男たちの気持ちがその時わかった気がして。
全部、やり返してやりたくなった。
*625年8月19日
久々に日記を開いて驚いた。
前は割と頻繁に日記をつけていたんだよな。
今は仕事も忙しいし、そんな余裕もなかったから忘れてた。
文字も、思ったように出てこない。
前はどんな話をしたっけか。
…そうか、あの悪魔の話だ。
今もあの悪魔は俺の家にいて、俺のストレスを解消してくれる。
…………………
良くないことだよな。
分かってるけど。
でも、今の俺は、あいつ以外の誰に気持ちをぶつけたらいいんだ。
昔みたいに気持ちを素直に言えなくなって、言いたいことを言えない焦れったさで他人を傷つけるだけの俺が。
いつ、あの悪魔も俺を鼻で笑うか分からない。
怖いから、だから、
力で支配しないと、見下されるかもしれないから…
なんで俺、こんなふうになっちまったんだ。
*625年、10月2日
テライ。
ごめんな。
俺こんなんで。
お前それでも俺こと好きって言ってくれたから。
俺それを信じてるからな。
照れくさいだけだからな…
俺がまた冷たくなっても、また俺の事許してくれよ。
俺さ…
俺さあ、お前しかいなくなっちまったから。
何があっても、俺を嫌ったり
俺を見捨てたりしないって、ずっと信じてるからな。
ごめんな、テライ。
本当にごめんな。
こんな主人で、ごめん。
日記はここで途切れている。