そこじゃない2月4日、日付が変わる少し前。
小腹が空いてコンビニに足を向けた。
ジュンはんが夜中だから一緒に行こうかと言ってくれたが、ついさっきお風呂から上がっていた人をこの寒空の中連れ回すのはよろしくない。「すぐそこだから大丈夫」と伝え、寮に1番近いコンビニに向かう。
何を食べようかと考えながら歩いていると、着いたコンビニに『ほかほか!特性肉まん!』と書かれたのぼりがあった。温かいペットボトルのお茶を手に取りレジへ向かい、肉まんを注文する。
「申し訳ありません、特性肉まんはただ今品切れしておりまして……」
「そうですか……」
のぼり効果とこの寒さからか、肉まんは売り切れてしまっていた。ううんと悩み、隣のケースに入っていたアメリカンドッグを買ってコンビニを後にした。
冷める前に食べてしまおうと、寮の手前にある公園に立ち寄った。入って右手にあるベンチは昼だと日当たりがよく、お気に入りの場所だ。
「不良少年はっけ〜ん♪」
そこには夜中だというのに、先客がいた。
「なァにしてんの、こんな時間に」
「燐音はんこそ何しとるん」
「質問に質問で返すなよォ。俺っちはジュンジュンから連絡もらってお迎えに来たんですゥ〜」
「迎えって、わしの?」
きょとんとしながら燐音はんを見上げる。
街灯にほんのり照らされる顔をよく見ると、鼻の頭が赤くなっていた。
「もしかしてわしが寮出てからここで待っとったん?」
「そんなに待ってないと思うけど……あ、これ食べる?2個買ったけど食べきれなくてさァ」
「これってなんやの」
はい、と渡されたレジ袋を受け取る。まだほんのり暖かい。中身は何かと開けてみると、先ほど買えなかったソレだった。
「うわ、肉まんや!ええの?!」
「ギャハハ!肉まん1つでそんな喜ぶのかよ、可愛いな〜こはくちゃんは〜」
「今日は嬉しいな、さっき食べたかったんやけど売り切れとったねん。おおきに燐音はん♪」
ここで食べていいかと聞くと、これ羽織って食べなと上着をかけられる。燐音はんが最近買ったらしい黒のチェスターコート。肩にかけられたそれを見ると、肩幅がかなり余っていて体格差を思い知る。
悔しさがきっと顔に出ているから見られないように少し俯いて、すとんとベンチに腰掛けた。
「……燐音はんは寒くないん?」
「ん〜……寒いけど、こうすれば暖かいかなって」
お邪魔しま〜す!と彼がベンチに座り、横にぴったりとくっついた。近い。
「近すぎて食べにくいんやけど」
「いいじゃん、頑張って食べな?」
ぐぅ〜〜〜〜
にこにことしていた燐音はんの顔が、みるみる赤くなっていく。しまいにはふい、と顔を背けられてしまった。
そりゃあ盛大にお腹の音が鳴れば、恥ずかしくもなる。
「なぁ燐音はん、さっき食べきれんって言うてなかった?」
「えーっと……」
「わしに嘘ついたん?」
「こはくちゃん、寒がってるかもしれないなぁって思って、気付いたら買ってました」
「……ぶはっ」
素直に本当の理由を言う燐音はんがなんだか可愛く思えて、思わず吹き出してしまった。
「なら肉まん半分こしよ」
「アリガト」
よいしょ、と燐音はんがくれた肉まんを半分に割って、少し大きい方を手渡した。自分で買ってきたアメリカンドッグもあるし、とにかく肉まんがひとくちでも食べられたらそれでいい。
「いただきます」
餡がこぼれないように、少し大きめに口を開けて頬張る。じゅわじゅわと肉汁が溢れてくる。割ったことによって少し冷めた肉まんは、ちょうどいい熱さで食べやすくなっていた。
「うわ、美味いな」
「これどこのやつなん?!美味しい!」
「反対側の路地裏抜けたとこに最近できた所」
「へ〜今度わしも行ってみよ」
ぱくぱくと食べ進めて、あっという間に無くなった。このまま食べてしまおうとアメリカンドッグに手をかけようとしたところで、燐音はんに制止された。
「…………よし、」
「うわっ?!」
燐音はんからぎゅっと抱きしめられる。
「急になんやねん!なぁ!」
「こはくちゃん、誕生日おめでとう」
ゆっくりと離れた時に、首元に冷たい感触があった。触ってみると、指輪がチェーンに通された物。
「よく似合ってんよ♪」
「……これ着ける場所、ちゃうくない?」
「え、」
首元にかけられたネックレスをちゃり、と外して燐音はんの手に握らせる。そのまま自分の左手を差し出した。燐音はんが驚きながらまさか、という顔をしている。
「ここ、やんなぁ?」
にんまりと自分の薬指を指さし、早く着けろと合図した。
「ほんっとそういうさァ……」
「あかんの?」
「あかんくないでーす」
燐音はんの大きな手がわしの左手にそっと触れる。そのまま左手の薬指に、指輪がはめられた。
「サイズぴったりや」
「そりゃあ入念にリサーチしたからな」
「え、全然気付かんかった」
「気付かれないようにするのめっちゃ大変だった」
他愛もない話をしながら、寮までの帰路についた。
ーEnd.