ストロベリー・サイクロン お邪魔しますと家に入って早々に「すぐにあんたの部屋へ行くわ。待ってて」と言い残し、大きなバッグを抱えた恋人が客間として使用している和室に籠ってから数分後、俺の自室の扉をノックする音に続いて、
「トリック・オア・トリート!」
ハッピー・ハロウィンしにきてあげたわよ、と、とんがり帽子の可愛い魔女が姿を見せた。
「やあ、ミオリネ。五分ぶりだね」
ハッピー・ハロウィンと、用意していたフルーツキャンディを差し出しながら、「その格好は?」と言葉を継ぐ。
「東の悪い魔女よ」
フルーツキャンディをぱくりと口に放り込み、ミオリネがくるりと回る。膝丈のスカートの裾がふわりと翻る。
黒いとんがり帽子、黒いパフスリーブドレス、白と黒のボーダー柄タイツをまとう姿は、絵本の中から飛び出してきたと思えるほどキュートだ。
「可愛いよ」
本心をそのまま言葉にして告げると、ミオリネはぽっと頬を赤らめた。「と、当然よっ」
「可愛い魔女さんに俺からもトリック・オア・トリート――お菓子をくれなきゃいたずらするよ」
「ふふっ、ちゃあんとお菓子を用意しているわ」
ベッドに座る俺の隣に腰をおろしながら、ミオリネはかぼちゃのランタンをかたどったポシェットへ黒い手袋の手を伸ばしたが、すぐにぎくりとしたように目を見開いた。
「や、やだ……! ポシェットにお菓子を入れてくるの忘れちゃった!」
どうやら用意していたチョコレートやらクッキーやらを丸ごと家に忘れてきたらしい。
「お菓子をくれないってことは、君にいたずらしてもいいってわけだ」
指の先でミオリネの前髪を梳きながら、俺は唇の端で笑った。色白の頬をトマトのように赤らめたミオリネが、大きな瞳に力を込めて俺を睨めつけてくる。
「い、いたずらって……、な、何よ、竜巻を起こして、わたしの上に家を落とそうってわけ? お生憎さま、いまからお菓子を取りに帰るわ……って、え、あの、シャディク? ち、ちょっと待ちなさいよ……あ」
「お菓子を忘れてきたのも君の計算のうちなのかな。俺にいたずらしてほしかったの?」
「ば、ばか……んっ」
竜巻にのって虹の彼方まで飛ばされてきた家――ではなく、俺の下敷きになったミオリネの唇からは、ほのかにいちごの香りがした。