番外編:逸風 若水ほど手放しに「好き」だとは言えないまでも、人間は嫌いではない。任務やプライベートで人間(じんかん)へ降りるのは、楽しみですらある。
館の幹部と龍游市幹部との二ヶ月に一度の定例ミーティングに随員として同行し、まだ陽が高い内に解散となった後は、上司でもあり友人でもある冠萱と買い物と食事のために地上へ残った。広い龍游の中心部に位置する市庁舎の最寄り駅から、地下鉄に乗って二駅の繁華街へ向かう。若水から情報を仕入れておいた新規開店の餐庁で遅めの昼食をゆっくりと終えてから、買い物に出た。
メインストリートの両サイドには老舗の百貨店やハイブランドの旗艦店、大型のショッピングモールが建ち並び、秋冬物の新作ファッションが溢れかえっている。街路樹が色づく葉を広げる石畳の歩道を歩きながら、メンズのディスプレイのショーウインドウを流し見ていった。
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