「あ?デコ助じゃねえか、何やってんだこんな所で」
「ん?あぁ、晃牙か〜」
外で飯でも食おうかとガーデンテラスへ向かう途中、ベンチに座って書類を見つめる、酷い顔をした同級生を見つけた。
「……大丈夫かよ」
「ん?おー、ちょっと外の空気吸ってただけだからさ〜」
てか、晃牙の方はどうしたんだ?こんなとこでさ。なんて、にへ、といつも通り人懐っこい笑みを浮かべるけれどその目の下のクマは濃い。
生徒会やユニット活動、その他諸々の仕事。こいつがこんなふうになる原因なんていくらでも考えつくが、いくらなんでも酷すぎでは無いだろうか。ちゃんと休んでいるんだろうか、こいつは。
「飯、食おうかと思ってただけだ」
隣座るぞ、と一応ことわってからベンチに腰掛ければ、一瞬瞬いてから「もう座ってんじゃん」と、またへにゃりと笑う。
「でも、飯食いに行かなくていいのか?」
「あー……やっぱ腹減ってねぇしいいかなって」
「あはは、なんだそれ〜」
けらけらと笑う衣更に妙にむっとしてしまって「そんなことよりよ、」と無駄に不機嫌な声が出てしまう。
「お前の方が大丈夫かよ、クマ、ひでえぞ」
少し、睨み気味になってしまったが横目で見れば、ぽかんとした顔をしてから「えっ」と声をあげた。
「そんなひどいか……?」
「おう」
「えぇ……まじかぁ……ライブ近いのになぁ、メイクで隠すしかないかな……」
「いや、違ぇだろ」
見当違いの解決法に思わずツッコミを入れる。それでもわからないのか首を傾げる衣更に、ため息をついて、その手の中にある書類をとんとん、と指さしてから言葉を続ける。
「昼休みなんだからよ、んな難しい書類なんて見てねぇで少しくらい休めばいいだろうが」
それだけでクマが消えるわけじゃねえけどよ、多少はマシになんだろ。
それを聞いて、またぱちぱちと瞬いてから、ぷっ、と衣更が吹き出すから、この野郎……と文句をいえば、ごめんごめんと笑いながら謝罪が返ってくる。そして。
「あはは、晃牙は優しいな〜!ん〜、じゃあ、」
そこで言葉を切ったかと思えば、とん、と肩に重さが乗るから見れば、見慣れた赤が間近にあって、ふわりと自分のとは違うシャンプーの香りが鼻をくすぐった。
「1分だけ、肩貸してくれ」
急なゼロ距離にグッと息を飲む。こっちの気持ちも知らないでこいつは。そんな、文句を飲み込んで、おい、と声をかける。
「昼休み、終わる前に起こしてやるからギリギリまで目ぇつぶってろ」
「ははっ、やっぱ晃牙は優しいな〜、さんきゅ、な」
そう呟いてすぐ、すぅすぅと息が聞こえたのにほっとしたのと同時に、くぅ、と自分のお腹が鳴ったのに気付く。
「……やっぱりなにか買えばよかったか」
後で、購買を覗いてみよう。今は、こいつの安眠を妨害する訳にはいかないから。