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    kik082_o

    銀弾

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    [昴コ]bird cage of secret
    以前、イベントで頒布したペーパーから再掲しました。

    #昴コ
    pleiades
    #赤コ
    izuThrush

    「はい。はい、そうですね。よろしくお願いします。後ほどご報告いただけると助かります」
    『すまないね』
    「いえ、お気になさらず」
     通話中の携帯を器用に肩と耳で挟んだ沖矢昴はポケットから取り出した預かりものの鍵を玄関の鍵穴に差し込んだ。そのとき、もう一方の手にぶら下げていたスーパーの袋ががさりと鳴る。
    『しかしだね、どうにも慣れないものだよ。本当に別人と話しているようだ』
    「その点は慣れていただくしかないですね。まあ、気持ちは分かりますが」
     電話の向こうにいるジェイムズ・ブラックはおそらく眉間に深いしわを刻んでいる。まだこの声で会話をするのは片手で数えられるほどなので向こうも慣れないのだろう。
     現在、工藤邸に居候している沖矢昴という人物はウィッグや特殊メイクで変装し、変声機で声を変えた赤井秀一だ。組織に潜入していたCIA捜査官である水無怜奈を再び組織へ戻す際、彼女に赤井が射殺されたよう偽装したため、今はこのような姿をとっている。
     水無から呼び出された赤井が来葉峠へ向かう前、ジェイムズが自分と接触しなければこんな厄介な秘密を共有させてしまうことにはならなかっただろう。たられば話をするつもりは毛頭ないので、沖矢は一度きつく目蓋を閉じてからそれをゆっくり持ち上げた。
    「また、なにかあれば連絡します」
    『君からならば、なにもなくとも連絡してくれたら嬉しいんだがね』
    「……善処します」
     寄り添うような彼の優しさに目尻が和らいだ。通話を切った携帯をポケットへ押しこみ、差しっぱなしになっていた鍵を握りなおす。それを回して開錠の音を確認してからドアノブに手をかけた。もうすぐ日付を跨ごうとしている時刻なため、邸宅のなかは暗闇に支配されている。手探りで玄関ホールの照明をつけた。ふ、と足元に目がいく。
    「ん? これは……」
     行儀よく並べられた一足のサッカーシューズが、沖矢の出かける前と同じまま残されていた。しばし口元に手を添えて思案したのち、後ろ手で玄関扉の鍵をまわす。
     まずはキッチンへ向かった。屋敷内の安全確認もしなければならないが、それより前にスーパーの袋の中身を冷蔵庫へしまわなければならない。
    「これでよし、と」
     冷蔵庫の戸を閉めてようやく一息つく。そのままジャケットの内ポケットを探り小型機器を取り出した。そこから伸びたイヤフォンコードを耳に納め、アンテナを引き伸ばす。沖矢が不在の合間にこの工藤邸へ侵入した者がいなかったか確認をするためだ。
     各部屋の、盗聴器の類が設置されそうな箇所を重点的に確認しながら見てまわる。最後に背の高い書棚のおかれた部屋へ入った途端、ソファのうえで丸まっている影を見つけた。
     玄関に残されていたサッカーシューズの持ち主、江戸川コナンだ。
    沖矢の帰りが遅くなったときには必ず寝室で眠るよう説き伏せておいたのも無駄な努力だったらしい。彼の周囲には読了済みらしい本がうず高く積まれている。乾燥を防ぐためラップをかけておいた軽食にも手をつけた形跡がなかった。
     やれやれ、と肩を落とす。
    「ここで寝たら風邪を引きますよ」
     狼の住む家で呑気に寝息をたてるなんて、不用心だと眉を寄せてみる。起きる気配はない。穏やかな寝息に合わせて平らな胸板が小さく上下していた。はおっていたジャケットを脱ぎ、かけてやる。起こさないよう注意深くソファに手をついた。
     僅かに身じろぎをした彼の、小ぶりな唇が吐息をこぼれる。真っ赤な舌がちろりと垣間見えた。唾液を嚥下する音がやけに大きく聞こえる。こんな小さな身体に飢えを感じてしまうとはつくづく悪い大人だ。
     ふ、と小さく笑う。
     汗ばんで張り付いていた前髪をかきあげ、息を殺して額に唇を寄せた。
    「いまの、もういっかい」
     寝起きの、舌ったらずな声とともに少年の腕が首に絡みつく。
    「起こしてしまいましたか」
    「ううん」
    「食事を摂っていないようですが」
    「その、話の続きが気になって」
     皿にかけたラップを外して気まずそうに頬をかくコナンの口元へ、小さくカットしたサンドウィッチを差し出した。沖矢の顔と差し出したそれを交互に見た彼は、観念したように怖ず怖ず口をひらく。食べ終えた口にまた一切れ差し出した。そうして彼がひとつひとつ咀嚼するさまをじっくり観察する。
    「食べるところをずっと見てるのって悪趣味だと思うよ。食べづらいし」
    「それがいやなら次からは気をつけることです」
    「うーん。そうする」
     腹が満たされたからだろうか、両腕をうえへあげて大きく伸びをした彼が、眠そうに目を擦っている。
     ベッドへ連れていってやろう。でも、その前にほんの少し味見がしたい。
     欠伸をしたその目尻に唇を寄せる。くすぐったそうに身じろぎされ、逃げようとする身体をとらえてのしかかった。口の端についたパンくずを舐めとり、口づけを深くする。小さな身体に触れるだけで理性がどろどろに溶かされていくのが分かった。シャツの隙間から手を潜り込ませる。
    「あ、待って」
     唇を制した人差し指がそのまま顎をなぞり喉元へ下っていく。タートルネックのしたに隠された、チョーカー型変声機が彼の眼前に晒される。それに彼の指先が触れ、小さな電子音がした。そうしてカツラも外され、そのしたに隠されていた黒髪がくしゃりとかき混ぜられる。
     赤井に魔法をかけた少年が、自らの手で魔法を解いていく。
     満足げな笑みを向けられ曖昧に笑い返した。赤井が沖矢昴のように笑うのは難しい。
    「赤井さん、おかえりなさい」
    「ああ、帰ったよボウヤ」
     鼻先を触れ合わせ、どちらともなく笑みを交わす。コナンはソファをおり、部屋の外へと歩き出した。抱き上げるのはお気に召さないようだ。赤井もそのあとに続く。
    「明日には帰るんだったな」
    「そうだね」
     先を歩いていた少年が振り返る。
    「―寂しい?」
    「ああ、寂しいさ」
     いたずらっぽい顔が変化した。不思議そうに瞬きをしている。赤井自身も、この口から寂しいなんて言葉が出るのが意外だった。もうずいぶん昔にそんな言葉、おいてきたと思っていた。
    「そう、なんだ」
    「ああ。だから今夜は傍にいてくれないか」
     間を詰め、コナンの背丈に合わせて身を屈める。耳元に口を寄せて囁いた。
    「赤井さん、反則」
    「惚れた弱みだ、許せ」
     顔を真っ赤に染めるその頬にキスをする。
     そうして、この少年がつくった鳥籠のなか月明かりのしたで飼い主の甘い蜜を啜った。
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    kik082_o

    DONE[昴コ]bird cage of secret
    以前、イベントで頒布したペーパーから再掲しました。
    「はい。はい、そうですね。よろしくお願いします。後ほどご報告いただけると助かります」
    『すまないね』
    「いえ、お気になさらず」
     通話中の携帯を器用に肩と耳で挟んだ沖矢昴はポケットから取り出した預かりものの鍵を玄関の鍵穴に差し込んだ。そのとき、もう一方の手にぶら下げていたスーパーの袋ががさりと鳴る。
    『しかしだね、どうにも慣れないものだよ。本当に別人と話しているようだ』
    「その点は慣れていただくしかないですね。まあ、気持ちは分かりますが」
     電話の向こうにいるジェイムズ・ブラックはおそらく眉間に深いしわを刻んでいる。まだこの声で会話をするのは片手で数えられるほどなので向こうも慣れないのだろう。
     現在、工藤邸に居候している沖矢昴という人物はウィッグや特殊メイクで変装し、変声機で声を変えた赤井秀一だ。組織に潜入していたCIA捜査官である水無怜奈を再び組織へ戻す際、彼女に赤井が射殺されたよう偽装したため、今はこのような姿をとっている。
     水無から呼び出された赤井が来葉峠へ向かう前、ジェイムズが自分と接触しなければこんな厄介な秘密を共有させてしまうことにはならなかっただろう。たられば話をする 2658

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    DONE[昴コ]bird cage of secret
    以前、イベントで頒布したペーパーから再掲しました。
    「はい。はい、そうですね。よろしくお願いします。後ほどご報告いただけると助かります」
    『すまないね』
    「いえ、お気になさらず」
     通話中の携帯を器用に肩と耳で挟んだ沖矢昴はポケットから取り出した預かりものの鍵を玄関の鍵穴に差し込んだ。そのとき、もう一方の手にぶら下げていたスーパーの袋ががさりと鳴る。
    『しかしだね、どうにも慣れないものだよ。本当に別人と話しているようだ』
    「その点は慣れていただくしかないですね。まあ、気持ちは分かりますが」
     電話の向こうにいるジェイムズ・ブラックはおそらく眉間に深いしわを刻んでいる。まだこの声で会話をするのは片手で数えられるほどなので向こうも慣れないのだろう。
     現在、工藤邸に居候している沖矢昴という人物はウィッグや特殊メイクで変装し、変声機で声を変えた赤井秀一だ。組織に潜入していたCIA捜査官である水無怜奈を再び組織へ戻す際、彼女に赤井が射殺されたよう偽装したため、今はこのような姿をとっている。
     水無から呼び出された赤井が来葉峠へ向かう前、ジェイムズが自分と接触しなければこんな厄介な秘密を共有させてしまうことにはならなかっただろう。たられば話をする 2658

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