よすがの星A・ラーマ・ラージュは昔から息抜きというものが苦手だった。警察官だった頃からの癖なのか、彼自身の性格の所以なのか、兎に角休息というものを避けてしまう所があった。
1度燃え上がると自ら鎮火の出来ない炎のように、故郷に戻ってからもラーマは何かに駆り立てられるように自らを追い込んだ。同胞に武器を渡すだけで使命が終わった訳ではない。
国を救う為の解放闘争は始まったばかりだ。銃弾だって限りがあるし、もっと協力者も必要だ。
そして、そのせいで寝食が疎かになりがちにもなった。
叔父やシータには苦労を掛けまいという気持ちがそうさせてしまった。
そんな中起きた訓練中の銃の暴発事故。
幸い怪我人こそ出なかったものの、ラーマは自分を責めた。
自分は父ヴェンカタのようにはなれない。皆を率いて立つ者に向いていない、と。後悔を譫言のように繰り返すラーマを見かねて、叔父とシータからビームに会いに行った方がいいと提案された。
今の情けない姿の私が彼に会うなど――、とラーマは躊躇った。……だが、群れを纏め上げる気質を持つ彼からの言葉でしか得られないものもあるのは事実だ。
ラーマは散々悩んだが、ここ数日の忙しさと疲労で心身共に限界を感じていたのもあって、ゴーダヴァリ川を渡る船へと飛び乗っていた。
ゴーントの森へやって来たラーマを、驚く訳でも理由を訊く訳でもなく、ビームは抱き締めて迎え入れてくれた。
質素ながらも薬膳に近い料理を差し出され、泥のように眠ればラーマは少しずつ人間の形を取り戻していった。
ビームは、ぽつりぽつりと経緯を語るラーマの声を黙って聞いていた。今のラーマに必要なのは寄り添ってやる事なのは本能的に感じ取ったのだろう。
ラーマは苦しい胸の内を吐露してようやくはらはらと涙を零した。泣き言すらずっと心の奥底にしまい込んできたラーマにとって、唯一さらけ出せるのはビームだけだった。
ビームは幾度も親指でラーマの雫を拭った。
それでも濡れ続ける頬を舌で辿った。
ラーマはビームに懇願した。
わたしを抱いて欲しい、と。
アンナ、大丈夫だ、ひとりじゃないから。
そう繰り返しながらビームは幾度もラーマの頭を撫でながら穿った。
翌朝、ラーマはビームへ縋るような真似をしてしまった事を謝罪した。ビームの優しさに付け込んでしまった事も。
「兄貴。デリーへ帰ろう。宝の日々をまた取り戻そう。兄貴に必要なのは戦いじゃねぇ。俺とまた笑い合う時間だ……そうだろ?」
額をこすり合わせ、静かに口付けられ、煌めく星のような瞳に、ラーマはようやく自覚した。
きみが好きだ。
わたしが愛しているのはシータではなく、きみなんだ。