これはキスじゃないまだすぐには落ちないであろう夕陽が教室を燃やすように染め上げている。
先刻の授業が よほど退屈だったようで、猪里は自席で すやすや眠りに落ちている。
連日の部活による練習疲れもあるのだろう。周りの誰もが そう自然と察して、起こされないまま、授業が終わっても猪里は そのままの姿で居た。
しばらくはテストの予定もない。クラスメイト達は それぞれ皆違うペースで、でも確実に帰っていって、最後に猪里だけがポツンと教室に取り残されていた。
それがさっきまでの事なのに、なんだか今は酷く遠く感じる。
「…猪里」
薄いオレンジに染まった教室の中に 自分の その声だけが響いた。
声の反響を自分の耳で受け止めて、改めて確認する。2人きりである事と、猪里が きちんと熟睡している事。
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