(仮題)Jet Lag狭く埃っぽいホテルの部屋に、大きくはないベッドがまずふたつ。その間に鎮座しているものとは別にもうひとつローテーブルとソファがあるのは、安宿においてその事実だけ取ってみればラッキーだ。小さな不幸は、そのローテーブルがリゾット・ネエロには少し低すぎることだろう。そこに置かれた古い電話機から彼の手元まで、受話器のコードは目一杯に伸びていた。プロシュートも最近気づいたことだが、この男は電話しながらつい立ち上がる癖がある。
「部屋は簡単に見つかった、とりあえず一週間だ。金は払ってある。仕事自体はもう少しかかるだろうが……あぁ。状況次第だな」
片側だけの会話を聞くと人は苛立ちやすいらしい。でも、リゾットの声によるそれは特段プロシュートの機嫌を損なうことはないようだった。相手がチームの誰かだろうとわかってから後は完全に聞き流して、プロシュートはベッドに広げた地図を見るのに集中しようとする。対象者にとって重要な場所と市街地と駅、最低限の地理だけでも頭に入れておきたかった。
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