恋する桜餅 今日も今日とて、〇・一秒も思い迷うことなく美術室の扉を開けたわたし瞳島眉美を持ち受けていたのは、季節外れの桜の香りと、世にも奇妙な光景だった――ソファに腰を下ろした美少年達が、そろいもそろってタオルで顔を覆っているのだ。
これが漫画なら、彼らの頭上に「しくしく」という擬音が踊っていたかもしれない。一瞬、涙を拭っているのかと思ったが、どうやら違う。よくよく見てみれば、洗顔を終えた後に濡れた顔をタオルで拭いている、という表現が近い。
「みんなそろって、どうしたっていうのよ?」
訊ねながら、わたしはテーブルの上に用意された本日のお茶請け――季節外れの桜の香りの正体――漆器の銘々皿にひとつだけ残っていた桜餅へ手を伸ばした。
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