【クロスオーバー】ふごのエリちゃんとBBBのツェッ君の邂逅「ブラ~ヴォ!素敵!エクセレント!」
パチパチパチ。いつもの公園でのいつもの興行、その終わり。雨の様な拍手の中、ひと際高く軽やかな声が最前列から聞こえた。
そちらに目を向けると、初めて見る可憐な少女の客がはしゃいでいた。心の底から楽しんでくれたとよくわかる笑顔が印象的な人類の少女だったが、次に目を引くのはその小さな頭からねじれ生えている大きな角と、おそらく臀部から生えているであろう大きな尻尾だった。初めて見るタイプだが、おそらく少し前に流行った生体アクセサリーだろう。
自分にはよくわからないがその流行はもう終わってしまったらしく、まだそれを付けているのは珍しいなと思った。火付け役のブランドはもう新シリーズを開発しようとして素材で異界産のバクテリアに社屋を分解されてとっくの昔に無くなっているが大丈夫なのだろうかと心配になった。まあ、HLを出なければ大丈夫らしいが。
などと思いながらおひねりも頂戴し、引き上げようと思ったところでその少女は声をかけてきた。
「アナタ、さっきのパフォーマンス、とっても素晴らしかったわ」
「ありがとうございます。僕は不定期ですが陽のある時間帯にいつもここでパフォーマンスをしているので、よろしければ次回も…」
「光栄に思いなさい!私のライブのバックダンサーに採用してあげる!」
「…はい?」
「なぁに?魚だから耳が遠いの?仕方ないわね、だから、私のライブのバックダンサーに採用してあげるって言ってるの?」
「…え?」
ぐぅうううぅううう。圧縮された空気が柔軟性のある閉塞器官の長を動く音がテンションの差が激しい2人の間で響いた。
「えーと…」
「ぅううう!何よ!五月蠅いわね!どうせここ数日あんまりご飯食べてないしバックダンサーを雇うお金は今手元にないわよ!ばーかばーか!」
***
はむはむ。もきゅもきゅ。ごっくん。
「…ありがとう。見た事のないカニだけど美味しいわね、このハンバーガー」
「僕も最初に食べた時は面食らいましたが、美味しいですよね。バブラデュゴバーガーって言うんですけど」
「…多分詳しいことは聞かない方が良いって事だけは分かるわ」
「行きつけのダイアンズダイナーというところの看板商品なんです。気に入ったら是非店の方にも。出来立てはもっと美味しいですよ」
「アイドルに過度の脂質は天敵なんだけど…そうね。一度は出来立てをいただくわ」
「アイドル?」
「そう!世界、いえ宇宙に羽ばたくアイドル、エリザベー………エリザとは私の事よ!美味しいランチのお礼に私のサインを上げるわよ?…その…今はちょっと、一文無しになっちゃったせいで地下アイドルの地位に甘んじてるけど…まぁ些細な問題よね!私のアイドル力ですぐにこの街のブタどもを一人残らず虜にしてみせるわ」
「なるほど…苦労されてるんですね…」
HLで訳ありでない人間の方が少ない。特にそれ以上は踏み込まなかった。バーガーを食べ終わったエリザ少女は立ち上がった。
「ありがとう。美味しかったわ。せめてお礼に一曲って言いたいところなんだけど…今は一日に歌う曲数を制限してるの。今日はもう歌っちゃったから…アナタは明日もここでパフォーマンスする?…ごめんなさい。私、アナタの名前をまだ聞いてなかったわね」
「ツェッド。ツェッド・オブライエンと言います」
「つぇ、ツェッド、ツェッドね。うん、覚えたわ!ツェッドは明日もここに来る?私、今は毎日この公園で歌ってるの。良ければ聞きにきて!アナタをバックダンサーにするに相応しい私の歌声を披露してあげる!」
「本業が不規則なので確約は出来ないのですが、是非お聞きしたいです」
「え、あんなに素敵なパフォーマンスなのに本業があるの?そう、この街、思ってたより娯楽に対して目が肥えてるのね…」
「いえ、そうではなく、」
「まあそれなら無理強いしては駄目ね。私のライブに来てくれるのを楽しみにしてるわ!まあそうなる前に私が売れっ子になってハンバーガーを3倍返しするのが先かもしれないけど。それじゃあね!」
「…パワフルな方ですね…」
芸能の頂を目指すにはあのくらいのバイタリティが必要なのかもしれない。気を取り直して彼女に渡してしまったランチの代わりを購入するために、ツェッドは街に繰り出した。