雪と古本のにおいカーテンを開けようとした手が、止まった。
「どうしたの?」
その手をぼんやりと眺めていた一が、訊く。カーテンを握ったまま、弾かれたように百々史が振り向いた。一とぱちりと目が合う。一はベッドの上で、毛布にぐるぐるにくるまっている。眠そうな双眸と、ぴょこっと元気なくせっ毛が、かろうじて出ているだけだ。重力に逆らっていたくせ毛が、へたっと毛布にくっついた。それを見て、クスッと笑いつつ百々史は、
「ちょっとこっち来て」
小さく手招きをした。しかし、一は眉間にシワを寄せて
「えー、寒い……」
「いいから!」
百々史が語気を強めて言うと、掴んでいた分厚い遮光カーテンも一緒に揺れた。窓の外から白い光の破片がキラリと一の顔を照らす。
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