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    kotobuki_enst

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    付き合ってないけどキスはする茨あん。喫煙表現あり。今の時代、煙草は薬や通院で楽に止められるとか聞きますがそのあたりあんずさんはどうなんでしょうね。

    ##茨あん

    コールドターキー この部屋の監視カメラは右奥の天井に一台。唯一の出入り口であるドアの方向を向いて部屋全体を見渡せる場所に設置してある。とはいえ、カメラが一台だけではどうしても死角というものが生まれてしまう。この部屋で言うならばカメラの真下の壁際などは撮影可能な範囲外であり、何をしようが記録には残らない。違和感のないように可動式のホワイトボードをそちらへ持っていけば、後から映像を確認されたとしても不審がられる可能性は低い。このような穴場スポットをそのままにしておくのは不正や悪事の温床になりかねないが、自身もこうして悪事に使用している以上、簡単になくせはしないのだ。
     彼女の下唇をやわく食む。どう応じればいいのかわからないらしい彼女はされるがままに、けれど二の腕のあたりの袖をぎゅっと握ってくる。このまま戸惑った様子の彼女を堪能してもよかったが、もっとわかりやすい触れ合いがしたくて唇の間から舌を忍ばせた。こちらのキスの方がよっぽど慣れている彼女は勝手知ったる様子で舌を伸ばし、舌を絡めながら表面同士を擦り合わせてくる。唾液が口の中で湧いて出てきて、舌を動かす度に水音が立つ。彼女の両耳に指を差し込めば、服を掴む手の力が強まった。
     彼女がどんな顔をして自分の舌を受け入れているのか知りたくて目を開く。彼女の瞳はゆるく閉じられており、舌の動きに合わせて震える睫毛が実に扇状的だった。薄い舌に噛みつき先端を強く吸ってやればくぐもった声が漏れ出る。その声に気分を良くし、最後にじゅっと大きく音を立てて吸い付いてから彼女の舌を解放した。

    「あんずさん、お昼にはレモンパスタを召し上がりました? おすすめって書いてありましたもんね」
    「キスした後に食レポしてくるのなんかちょっと気持ち悪いんだけど」
    「キスはレモンの味って言いますもんねぇ。あなたとこんなロマンチックなキスを楽しめるなんて嬉しい限りです」
    「それファースト限定の話じゃないっけ?」

     昔は頬を赤らめたり困ったように眉を寄せていた彼女も今ではとっくに慣れてしまったようで、悪態をつく余裕まで生まれてしまったようだ。可愛げがなく嘆かわしいことである。平然と「じゃあ打ち合せ始めようよ」と仕事モードに切り替わってしまう冷静さが憎らしくて、唾液で濡れた彼女の唇をべろりと舐め上げてからもう一度舌を差し込んだ。
     自分と彼女は付き合っていない。では身体だけの、所謂セフレというやつかというとそうでもない。身体の関係を持ったことはなく、現時点で自分が彼女に許されているのはキスまでだ。その先はまだ強請れていない。
     きっかけなどなかった。ただ何となくキスがしたいという気持ちが我慢できずに、思わず彼女に口付けてしまっただけ。舌も入れず触れるだけのそれだったが、彼女は顔を真っ赤に染めてわなわなと震えたのち、目を吊り上げてアイドルとしての意識の低さについて説教を垂れてきた。珍しく饒舌に語られる文句や苦言の中には彼女自身が嫌だったとか不快だったとかそういうものがなかったから、調子に乗って言い訳をした。窓のない密室であり目撃者がいるはずがない。監視カメラからは映らない場所であった。あなたさえ黙っていれば無かったことにできる。そう捲し立ててやり、ついでにこれが公になれば自分ひいてはEdenの名声が……などと大袈裟に落ち込んで見せれば「まあ、それなら……」などと言うものだから、本当にちょろい女だと思った。
     それ以降、目撃者のいない二人だけの場所であることと監視カメラに映らない場所であることの二点さえ守れば、彼女に口付けようと文句を言われることはなかった。

    「……そういう七種くんは……煙草でも吸ってきたの? やけに苦かったんだけど」
    「ああ、わかってしまうものなんですね。最近吸い始めまして」
    「体力落ちるよ」
    「パフォーパンスに悪影響を与えるほど長い付き合いをするつもりはありませんよ」

     百害あるのは承知の上で、一理無しと言い切れないのが厄介なところだ。芸能界を牛耳る重鎮——もとい老害共の間では、未だコミュニケーションの小道具として重宝されていることは事実。実際喫煙所で声をかけられたことから生まれた商談や案件などが吸い始めてからの間でいくつかあった。生涯の伴侶にするつもりは毛頭ないが、自分がまだこの世界の下の方にいる間だけ都合のいい存在として消費させてもらうつもりだ。

    「苦いのはお嫌いでした?」
    「……おいしくなくなったからね」
    「これまで美味しいと思って頂けていただなんて光栄です。唾液を美味しく感じる相手って相性が良いというでしょう」
    「それは惜しい人を失くしたなぁ」

     彼女が苦味を好まないことは知っている。いつもココアやカフェラテばかりを選び、徹夜続きでもない限りコーヒーを飲もうとすることはない。付き合いならともかく、気心の知れた面子とのカジュアルな飲みの場ではカクテルなどの甘い酒ばかりを飲んでいる。子供舌の彼女には、煙草の苦味は耐え難いだろう。

    「……惜しいと、思ってくださるんですね」
    「え? あぁあの、相性良いんでしょ? 比較対象がないからわかんないけど」

     比較対象がいない。薄々気付いていたけれど、その考えに本人からの箔押しがついたことに内心ほくそ笑む。自分以外に彼女を求めた男はおらず、彼女は自分以外の男とキスをしない。自分以外の男のキスの味も、自分に教え込まれた以外の手順も知らない。夢ノ咲連中が足並み揃えて足踏みしている間に、何も知らなかった彼女に唾液を絡めて舌を擦り合わせる快感を教え込んでやった。言いようのない歓喜が溢れてぞわりと鳥肌が立つ。

    「ねぇ、あんずさん」

     今がチャンスだと思った。もっと先を。彼女の全てを手に入れるための。
     アイドルに乞われれば簡単に唇を許してしまう彼女のことだ。自分が抱かせてほしいと頼めばそれも呑んでくれるのかもしれないが、求めているのはそんなものではない。プロデューサーとしてアイドルの我儘を聞いているだけの彼女に、あんずさん自身に、この七種茨を欲してもらいたい。

    「あなたに望んでいただけるのなら、自分煙草なんてすぐにやめてしまいますよ」

     彼女の頭を両手で優しく押さえて目を合わせる。自分と同じ色の瞳に自分だけが映されているのが己を昂らせた。発する声が、吐息が、目線が、指先が、自分の全てが武器になり得ると、アイドルである自分は知っている。ありったけの甘さを言葉に乗せて、致死量の毒を眼差しで流し込んで、この女を射抜いてやる。
     だからどうか、堕ちてきてほしい。ひとりの女として、他の何でもない七種茨を求めてほしい。

    「さ、えぐさくん」

     息が顔にかかってしまうほどの距離だった。言ってくれ。煙草なんてやめてほしいと。わたし好みの七種君でいてほしいと。

    「——やだ」

     触れ合いそうになった唇の間に割り込んだのは彼女の手のひらだった。わざわざ両手で、自分の口元を覆うように伸ばされている。

    「苦いの嫌いだから、煙草吸うならしばらく無しにしよう」

     あんずさんは自分の拘束をするりと抜け出して、自分からある程度の距離を置くとぱっぱと乱れたスーツを正し始めた。

    「——あんずさん、自分は」
    「別に、止める必要はないと思うよ。心配はするけど七種くんの身体なんだから七種くんの好きにしたらいいし、私に合わせてわざわざあなたの武器を捨てることはないよ」

     打ち合わせ、今度こそ始めよっか。
     部屋の壁から約二メートル、監視カメラにその姿が映る位置で、彼女はにっこり笑った。情報部に記録の残るその映像には、つい先程まで唇を濡らしていたひとりの女の姿はどこにも映っていなかった。
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    kotobuki_enst

    DONE人魚茨あんのBSS。映像だったらPG12くらいになってそうな程度の痛い描写があります。
    全然筆が進まなくてヒィヒィ言いながらどうにか捏ね回しました。耐えられなくなったら下げます。スランプかなと思ったけれどカニはスラスラ書けたから困難に対して成す術なく敗北する茨が解釈違いだっただけかもしれない。この茨は人生で物事が上手くいかなかったの初めてなのかもしれないね。
    不可逆 凪いだその様を好んでいた。口数は少なく、その顔が表情を形作ることは滅多にない。ただ静かに自分の後ろを追い、命じたことは従順にこなし、時たまに綻ぶ海底と同じ温度の瞳を愛しく思っていた。名実ともに自分のものであるはずだった。命尽きるまでこの女が傍らにいるのだと、信じて疑わなかった。





     机の上にぽつねんと置かれた、藻のこんもりと盛られた木製のボウルを見て思わず舌打ちが漏れる。
     研究に必要な草や藻の類を収集してくるのは彼女の役目だ。今日も朝早くに数種類を採取してくるように指示を出していたが、指示された作業だけをこなせば自分の仕事は終わりだろうとでも言いたげな態度はいただけない。それが終われば雑務やら何やら頼みたいことも教え込みたいことも尽きないのだから、自分の所へ戻って次は何をするべきかと伺って然るべきだろう。
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    kotobuki_enst

    DONE膝枕する英あん。眠れないとき、眠る気になれないときに眠りにつくのが少しだけ楽しく思えるようなおまじないの話です。まあ英智はそう簡単に眠ったりはしないんですが。ちょっとセンチメンタルなので合いそうな方だけどうぞ。


    「あんずの膝は俺の膝なんだけど」
    「凛月くんだけの膝ではないようだよ」
    「あんずの膝の一番の上客は俺だよ」
    「凛月くんのためを想って起きてあげたんだけどなあ」
    眠れないときのおまじない ほんの一瞬、持ってきた鞄から企画書を取り出そうと背を向けていた。振り返った時にはつい先ほどまでそこに立っていた人の姿はなく、けたたましい警告音が鳴り響いていた。

    「天祥院先輩」

     先輩は消えてなどはいなかった。専用の大きなデスクの向こう側で片膝をついてしゃがみ込んでいた。左手はシャツの胸元をきつく握りしめている。おそらくは発作だ。先輩のこの姿を目にするのは初めてではないけれど、長らく見ていなかった光景だった。
     鞄を放って慌てて駆け寄り目線を合わせる。呼吸が荒い。腕に巻いたスマートウォッチのような体調管理機に表示された数値がぐんぐんと下がっている。右手は床についた私の腕を握り締め、ギリギリと容赦のない力が込められた。
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    kotobuki_enst

    DONEあんず島展示① 寒い日の茨あん
    地獄まで道連れなことに定評のある茨あんですが、一度茨のいるところまであんずさんを引き摺り下ろした後に共にまた上り詰めてほしいという概念の話です。
    その身体のぬくもりよ「おかえり、早かったね」
    「会食をドタキャンされてしまったもので」

     もこもこのルームウェアで着膨れした彼女は足先までルームソックスに包み、その上毛布に包まりながらソファに縮こまっていた。限界まで引き延ばしたであろう袖口に収まりきらなかった指先が膝上に置かれたマグカップを支えている。冷え切った自分とは対照的に、随分と暖かそうな格好だった。暖房の効いたリビングは空っ風に吹き付けられた体をじわじわと暖めていく。

    「食べてくると思ってたから何にも用意してないや」
    「連絡を怠ったのはこちらですのでお気遣いなく。栄養補助食品で済ませます」
    「……用意するからちゃんとあったかいご飯食べて。外寒かったでしょ」

     日中の最高気温すら二桁に届かなくなるこの時期、夜は凍えるほどに寒くなる。タクシーを使ったとはいえ、マンションの前に停めさせるわけにもいかず少し離れた大通りから自宅まで数分歩いただけでも体の芯まで冷え切るような心地だった。愛用している手袋を事務所に置いてきてしまったことが悔やまれたが、家に帰ってきてしまえばもうそんなことはどうでもいい。
    2027