執事の、誕生日。('22)バルバトスの誕生日プレゼントに何を送ろうかと、頭を悩ませる。
MCに相談すると、「人間界に有名なマカロン専門店がある」と教えてもらったので、二人で人間界に出向き、そこのマカロンと、桃のフレーバーの紅茶を買ってギフトにした。
魔王城のチャイムを押すと、珍しく、慌ててバルバトスが姿を現す。
「申し訳ありません。少し、立て込んでおりまして…」
そう言うと、バルバトスは一歩下がり、俺たちをエントランスに迎えてくれる。
そこに入って、あのバルバトスが忙しくしている理由がわかった。
エントランスには、フロアを埋め尽くすほどの色とりどりの花が置かれており、それを配置している最中なのだというのが見てとれた。
「こちらは、全て坊っちゃまからの贈り物でございます。毎年いただくのもしのびなく、結構です、とお断りしているのですが、年々、バージョンアップしておりまして…」
よく見ると、フロアの端にはリボンで飾られたプレゼントの山もある。
これをすべて、ディアボロが。
愛というかなんというか、さすが、次期魔王ともなると、スケールが違う。
「そうだったんだね。大変な時にごめん。これ、俺たちからの誕生日プレゼント」
そんなエントランスの様子に圧倒されながら、ここに来た目的を思い出し、後ろ手に持っていたプレゼントを差し出す。
「ありがとうございます。…おや、こちらはマカロンと、紅茶、でございますか」
さっそく包みを開けたバルバトスが、珍しく、少し顔を綻ばせたのがわかった。
「うん。人間界で有名なお店のマカロンと、夏限定の桃の紅茶。お口に合えばいいんだけど」
「私の好物ばかりで大変嬉しいです。ありがとうございます。さっそく、こちらの整理が終わりましたらいただきますね。お二人で選んでいただいたのですか?」
バルバトスが俺たち二人を交互に見ると、珍しく隣で大人しくしていたMCが口を開く。
「そう。ま、人間界デートのついでに?」
「ひっ!」
いつもの子供のような笑顔で冗談めかして言ったかと思えば、急に、俺の腰に手を回してくる。
それがちょうど俺の肌が露出している部分に添えられ、俺は思わず小さな声を上げてしまう。
「それはそれは、仲のよろしいことで、羨ましい限りですね」
「でしょー」
MCは、そんな俺に視線を寄越すことなく、何食わぬ顔でバルバトスと会話を交わしている。
しかし、その手はずっと俺の腰をさわさわと撫で続け、俺は、その手を剥がそうと必死に抵抗し、バルバトスに見えないところで、静かな攻防を繰り広げていた。
「じゃ!渡すもんも渡したし、帰るね。バルバトス、誕生日おめでとう!」
「お、おめでとう!バルバトス」
「はい、ありがとうございます」
何回か言葉を交わしたあと、MCがあっさり話を締めて魔王城をあとにする。
俺も慌ててバルバトスに挨拶し、腰を引かれるままMCについていく。
そんな俺たちの後ろ姿を、バルバトスが丁寧に一礼して見送ってくれた。
「ちょっと!バルバトスの前で、あんなことしないでよっ!」
魔王城の大きな門を出るやいなや、俺はMCに注意する。
しかし、MCはいまだ、俺の腰を抱いたままだ。
「なんで?別にいいじゃん。デート行ってきたのは事実なんだし、仲良しアピールしても」
「それはいいけど、そのっ…変な触り方、しないでっ」
腰を抱かれるまではまだ許せた。
でも、MCの撫で方は、明らかに、その、いやらしい。
「ふーん…反応しちゃった?」
「ぴっ!」
MCが俺の耳に顔を寄せ、ふーっと息を吹きかけながら耳元で話す。
そんな不意打ちに、俺は思わず変な声が出てしまう。
「ははっ!ほんと、敏感で可愛いなぁ、シメオンは。メゾン煉獄に帰るまで、もーちょっと我慢してねっ」
そう言うと、耳の縁にチュッと音を立ててキスをしながら、腰の布の隙間から指を差し込んでくる。
今はたまたま周りに人がいないとはいえ、公共の場で何をしているんだ、この人は!
「ダメっ!もぉっ!」
俺は、明らかに自分が耳まで真っ赤になっているのを感じながら、腰に回ったMCの手をペチンッと叩いて、俺から引き剥がす。
MCは、ちぇーっ、という風に叩かれた手を振ったかと思うと、ごく自然に、俺の手を握って歩き出す。
こういう、さり気ないリードが出来るところに、またキュンとしてしまうのだ。
やっぱり、この人には敵わないな。
――――――――――
一方その頃、バルバトスは、仲睦まじく去っていった二人の後ろ姿を見送ると、
「シメオン、隠せていると思っていたのでしょうか?こちらからはすべて見えていたのですが。ふふ、本当に、種族を越えた愛とは、素晴らしいものですね」
そう言いながら、再び、エントランスの花畑の中へと消えていった。