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    bagw0rm

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    【メガ+Mダイ】過去の短文を格納。Mダちゃんがお人形み溢れているかもしれない

    アルペイジオ【メガ+Mダイ】「お利口にしていろよ」
     メガトロンはメタルスダイノボットに留守番を言いつけた。言うまでもないことだと彼はわかっていたが、ふざけた調子で口にする。それもメタルスダイノボットは気に留めることなく、ただ”ダ”と応じた。
     鳴き声のようだ、とメガトロンの思考に由無し事が過る。彼はその鳴き声を是と受け取り、身を翻した。メタルスダイノボットはその場から動くことなくメガトロンを見送り、彼がドアの向こうに消え、さらにドアがオートで閉まりきるまで瞬きもなく見つめていた。

     それなりの時間が経って、メガトロンはゆったりと出て行ったドアから入ってきた。戻ってきた彼の装甲は曇りひとつなく滑らかで、艶を帯びている。
     言いつけどおりに待っていたメタルスダイノボットはといえば、メガトロンが出て行った時から一歩も動くことなく立っていた。
     彼らの視線が交わり、メタルスダイノボットはそれを以て待機命令の解除を知る。メガトロンは徐にメタルスダイノボットに問いかけた。
    「そういえば以前、スパークの拍動が乱れると言っていたな?」
     メタルスダイノボットの胸にしまわれた1つと少しのスパークは、時折おかしな拍を刻む。痛みだとかの異常は伴わない。ただ拍子がズレるというだけのこと。彼は当然回路をフルスクリーニングしてみたが、何ら問題は検出されなかった。
    「……ダァ」
    「他に何か気になることは?」
     メタルスダイノボットは小首を傾げた。”気になること”という曖昧で模糊とした言葉に彼は反応しかねた。加えて、彼は時折乱れるスパーク以外に他に気付いたこともなかった。
    「そうか。じゃ、ちょーっとネズミ捕りにでも出てもらおっかな」
     メタルスダイノボットは黙って言葉の続きを、具体的な指示を待った。オプティックは一定の輝度及び彩度で輝き、表情という表情もなく、微動だにしない。彼はあたかも人形のようであったが、ただゆらりゆうらりと不規則に揺れる尾は彼が生命体であることを唯一明示していた。
     ふと、メガトロンは好奇心が擽られた。彼はメタルスダイノボットを手招いた。素直に寄ってきた真っ白な身体を、その首を掴んで引き寄せた。顔と顔が近づく。規則的に吸排気される気体が互いに分かるほどの距離だった。
    「……避けないんだな」
     メガトロンがオプティックを細めた。一対の四角いオプティックが長辺を撓ませ、赤く光っている。近距離になろうとも視線を逸らすこともなく、メタルスダイノボットはメガトロンの赤をただじっと見つめる。
     アイカメラは近づいた対象に焦点を合わせ、きゅるりと径を小さくした。サイドの高いオプティックの向こう、メガトロンは微かな動きを見て取った。
    「いい子だ」
     メガトロンの低く深い声がゆっくりと言い聞かせるように囁いた。かつてのダイノボットはメガトロンに近距離で囁かれるのを嫌がった。曰く、背筋が冷えると。メタルスダイノボットはオプティックをぱちくりと瞬かせるだけで特別大きな反応はない。メガトロンは無情にも見える白い面を見詰め、別個体だと内心で笑った。
     興味の失せたメガトロンはぱっと離れてコンソールへと向かった。メタルスダイノボットがそれを追う。
    「マキシマルのネズミどもが境界線上を動いている」
     虚空に三次元マップが投影されて浮かび上がる。この星におけるプレダコンとマキシマル、それぞれのテリトリーのボーダー上にマキシマルを表すマーカーが2つ点滅していた。
    「生け捕りか、殺しても構わん」
     口角を持ち上げたメガトロンの表情は笑みのような形を取った。
     さぁ行けと、メガトロンが手を振った。メタルスダイノボットはそれを合図にゆるりと背を向け、ドアに向かう。

     鬱蒼とした森の中、高い陰樹の下で地面に射し込む光はごく僅かだ。じめじめとした薄暗がりに白い影が走った。美しい白骨の恐竜だ。その外貌は文字通り生ける化石のようであるが、その身体は冒涜的な金属質の光沢をもち、鈍く輝いている。
     ふと、走っている恐竜の口が開いて凶悪な牙が顕になった。彼は笑っていた。
     一条の光が白骨の恐竜の進行方向に飛んでいく。 赫赫たる光芒は空気を灼き、標的に向けて一直線に進む。
    「うわあ!」
     獲物を捕らえ損ねた光は打ち当たった岩を砕いた。岩陰から悲鳴が上がる。
    「なんなんだよもう!」
     崩れた岩陰から走り出したのは自然の色ではないネズミとチーター。ネズミはチーターに負けない速度で走行している。木々の合間を縫うように悪路を走る。彼らが何度振り返って見ても白い恐竜はしぶとく追ってきていた。走って走って彼らが駆け込んだ先は、無情にも行き止まりだった。 少しの裸地の先、截然と岩壁が立っていた。
    「なんでこんなとこに壁があるんだよ!」
    「やばいジャン」
     急ブレーキのかかった車輪が砂煙を巻き上げる。ラットルは崖上を見上げて悪態をついた。断崖の上には、曇った空に濁った太陽の光が見えている。まだ、日暮れは遠い。彼の隣でチータスは背後に向き直った。
    「やるっきゃないジャン」
    「嫌だよ!」
     ラットルにしてみれば、崖を背に戦うなど願い下げである。相手はただでさえ体が大きく、高火力で自己再生能力もあるのだ。ついでに伏兵がいないとも限らない。
    「ダァ、追い詰めたぜ」
     木の間から飛び出したメタルスダイノボットの足がザリッと砂地を踏みしめた。 チータスが引き金を引く。メタルスダイノボットは銃撃のほとんどを躱し、ビームの掠めたパーツは再生を始める。苦々しい表情でトリガーを引き続けるチータスの隣、蠢く金属にラットルが悍ましげに表情を歪めた。
     今彼の目の前にいるのはダイノボットであって ダイノボットではない。声はほとんど同じだ。相違を考え始めれば、違うところの方が多いことを彼はもう何度目か、認識させられた。彼はダイノボットが遺したメモリーをメタルスダイノボットにインストールしていた。一縷の望みだった。それでも今このときまでメタルスダイノボットがダイノボットとなる様子はなかった。
    「お前なんか死んじゃえよ!」
     攻撃的な言葉はしかし悲痛な響きで発された。チータスがぎょっとしてラットルを振り返る。 叫んだラットル自身が誰よりも傷ついたような顔をしていた。
    「......どういうことだ? オレが死んだところで何も変わらない」
     わからないという様子でメタルスダイノボットが首を傾げる。淡々と述べるのは事実であると、彼がそう思っていることを示していた。
     攻撃の手は止まっていたが、それも動揺などではなく一重に余裕が故だとその場にいたふたりには知れた。
    「うるさいうるさい!」
     反応に乏しいメタルスダイノボットに苛立ったラットルは銃口を持ち上げるやいなや、発砲した。
     1発、2発、照準もそこそこに連射する。
    「……ダァ」
     メタルスダイノボットへ唐突に入った通信の発信者は戻ってこいと告げた。彼は躊躇なく背を向けて来た道を戻り始めた。驚いたのはチータスとラットルだ。
    「え、ちょっなに」
    「ここは逃げるジャーン!」
     好機を逃さず、チータスは身の安全を採った。ラットルを掴み、彼は空に跳ね上がった。

     基地へと帰投したメタルスダイノボットは真っ直ぐにメガトロンの下へ向かった。メガトロンは幼い子を迎えるように両手を広げた。口元に薄っすらと笑みを刷いている。
    「戻った」
    「ははは、死ねだとか言われていたなぁ」
     メガトロンはマップ上のマーカーが示すマキシマルがチータスとラットルであることを、定点のサーベイランス映像から知っていた。そして一部始終を見ていた。高みの見物だ。ラットルと、嘗てとは異なる "ダイノボット"をぶつける、瑣事はあるだろうという意地の悪いセッティングだった。
    「ああ、オレが死ぬとなにかあるのか」
    「何もないさ。それにしても死ね、死ねか」
     わざとらしい哄笑が空疎な室内に響く。
     メタルスダイノボットは頭を捻る――オレが死ぬことによって、果たして何かがあってほしかったのか
     そもそも混じり物にされている彼のスパークが、 何事もなくオールスパークに還るのか、誰も知りはしないし誰もそんなことを考えはしなかった。 彼も彼以外も、少なくともこの基地にいる者は死後について考えを巡らせたりしない。
     それまで笑っていたメガトロンがぴたりと笑うのを止め、声の調子を変えた。鳴呼よかったとうっそりと呟いた。
    「オレサマはきちんと親を殺したからな、例え死んだとして賽の河原には行かないぞ」
     メタルスダイノボットはただメガトロンを見つめる。その彼のブレインに、お前は最短距離で地獄行きだという誰かの、或いは彼自身の思考がかすめていった。 彼にはあるはずのない記憶があった。彼は爪を口もとに持っていくと思考を整理しようとした。彼は感情がざわめくのを感じていた。
    「メガトロン、若干の思考吹入がある。休ませろ」
      自己申告してくるりと向きを変えたメタルスダイノボットを、メガトロンは少しの驚きと好奇をもって見送った。止めることはしなかった。
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