夕刻の冷たい風が江澄の頬をなでた。隣にあるはずのぬくもりを求めて、手がパタパタと敷布の上をさまよう。
「らん、ふぁん?」
かすれ声が出た。しかし、いつもなら応えてくれるやさしい声はない。何にも触れなかった指先を引っ込めて、江澄は目を開けた。
帳子が風に揺れている。
その向こう、露台に白い背中があった。何を考えているのか、真剣な面持ちで蓮花湖を見下ろしている。
江澄は素肌の上に掛布を羽織って、「藍渙」と名を呼んだ。
「阿澄」
振り返った藍曦臣はいつもの笑顔を浮かべて、素早く牀榻へと戻ってきた。
「なにをしていたんだ」
「湖を見ていました」
彼は牀榻に腰かけると、江澄の頬をなでた。手のひらはあたたかく、冷えた風の感触を消していく。
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