はじめは、ぽつ、ぽつ、と。
天気が崩れる。ひどい雨になりそうだ。
今日は台風が来るんだろ。
台風? そんな日にやれるのか?
知らない誰かのさざめきが生まれては、場の空気に呑まれ消えていく。最高潮に盛り上がった会場では、懸念の声はかき消されるのが常だ。
分厚い雲が逆巻くような空から僅かに滴る雫は地に落ちて、触れた場所に沈み、僅かばかり濃い色を残した。大きな雨の粒が、髪を濡らして煩わしい。
時を置いて少しずつ強まる雨に、今夜の「S」は中止になるんじゃないかとギャラリーがざわめきはじめた。耳朶を打つ騒がしさもその内容もひどく気に食わないはずで煩わしいはずなのに、何故か今の自分にとっては何の妨げにもならなかった。
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