小雨のなかで(先生、今日も出てこないや……)
ベレトの部屋の前を通りがかったリンハルトは一度立ち止まり、外側から中の様子を窺う。
あいかわらず天気はぐずついて、灰白の雲がほとほとと竪琴の弦の色をした小雨を落としている。かろうじて目に映るくらいの細かなそれはリンハルトの制服をほんのりと濡らして、音も無く地上に吸い込まれていく。あの日……ジェラルトが亡くなった日も雨であり、濡れた地面の臭いはおのずと墓地の湿った土の記憶を呼び覚ました。
ほんの数日前の事である。黒鷲(クラスメイト)の女生徒モニカに刺されジェラルトはその命を落としたのだ。最強と呼び声高い傭兵団の団長としてはあっけない最後だった。
葬儀を済ませた後、ベレトはふさぎ込み部屋にひきこもった。大司教レアもベレトを気遣い彼が落ち着くまでの間、無期限の休暇を与えることとした。
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