氷菓子と昔話ギラギラと太陽が崩壊したビルや建物を照らしている快晴の夏。人間たちがいる世界では7月に入った初夏のいう頃だろうか。
木々に登る虫たちがほぼ絶滅したこの世界では蝉という生き物も存在しない。そんな中拠点であるビルのガラスを通し熱に当たる俺たちは冷たい物を求め廊下に並ぶ販売機に手を伸ばした。
この世界には食というものはまだ現在だった。作る人は少なくなってしまったが、この会社には昔俺が各国で見てきた食事が全てこの大きく四角い機械の中で作られるのだ。自動という言葉は本当に凄い。
いや、そんなことより、今は食事よりも涼むことを優先した方がいいかもしれない。こんな暑さじゃ食欲なんてとても湧かないからな。
「今日も暑いな…」
俺は紙の容器に入った氷菓子の絵が描かれたボタンを押すとガコンッと中で落ちる音を立てた。取り出し口からそれを取り出し隣に設置されているベンチへと座った。
「エクスカリバーはまたカップアイスにしたのか?」
「またって……お前の方こそまたその棒に刺さった硬そうな氷にしたんだな」
「これはただの氷じゃない!ソーダの味がする甘い氷なんだぞ!」
一緒にアイスを買いにきた彼女は取り出し口から氷菓子を取り出すとドヤドヤと自慢げに見せつけてくる。確かにそれは見た目からは想像できないほど甘くて美味しいのだが…
「まあ、そういうことにしておく…」
「ん?なんか言ったか?」
「いいや何も」
俺は首を横に振りながらそう答えると自分の分の氷菓子を開封し口に運んだ。口の中に広がる冷たく甘みのあるチョコレートの風味、そして丁度よく混ざった高級感なバニラクリーム。ああ、やっぱりこれだ。これを食べないと仕事を終えた気がしない。
横を見ると彼女も同じことを考えていたのか満面の笑みを浮かべながら幸せそうに食べている。
そんなに硬い氷菓子が美味いのだろうか?正直、俺はあまり好きではない。ソーダの味と言っても炭酸は無いし安っぽい味、そんな物を食べるのなら俺はクリームとチョコを混ぜたカップのアイスを食べる。それにこんな暑さで溶けても零れることもないからな。
「あーーーーっ!!」
突然隣から耳が痛くなるほどの大きな声が聞こえてきた。
「な、なんだ急に!?また棒から落としたのか?」
横を向くと彼女の持つ手には棒だけになってしまった氷菓子。
だから前にも言っただろう、棒だと暑さで氷を落としてしまうぞと、そう言おうとした瞬間彼女は立ち上がり輝いた笑顔で棒を目の前へと突き出してきた。
「当たった!!当たりが出たぞ!!!」
「え?あたり…?」
彼女の持っている棒をよく見ると確かにそこには小さな文字で『あたり』と書かれている。
「やったぞ!!ほら見てみろエクスカリバー!!すごいだろ!!」
「お、おう……そうだな」
どうやら彼女いわくこの『あたり』と書かれた棒は非常に珍しく、人間はこの棒が出ると同じアイスが無料でまた貰えるとのことだった。
…だがこのアイスが売られているのはこの販売機だ。店員もいなければこんな棒を自動で検出し差し出せるような機能は流石にない。何処からも貰えることなんてもう出来ないのだ。
「…なぁ、よく考えてみろ…お前がその当たりが出したとしても、アイスはお金を出さない限りもう貰えないんだぞ…?」
俺は喜んでいる彼女に恐る恐る事実を伝えるも、その輝かしい表情を何一つ変えることはなかった。
「いいんだ!!アイスが貰えなくても、私はこの棒がどうしても欲しかったんだ!!」
……俺の中でなんとも言えない感情がこみ上げてくる。こんな絶望的な世界の中でも必死に生きて、共に戦っているというのに、欲しかった木の棒を手にして些細な幸せに彼女は本当に嬉しいのだろう。その喜び方はまるでおもちゃを買ってもらった小さな子供のようだ。
「そっか……よかったな。」
「ああ!そうだ!ソロモンとネオにも見せにいこうか!」
「止めておけ、からかわれるぞ」
「何故なんだ!?」
驚いた顔でそう言って笑う彼女を見ていると俺も自然と頬が緩んでくる。
俺はそんなアーサーが微笑ましく思えた。そして同時に思う、どんなことがあっても傍にいて、守ってあげたいと。
俺は棒に刺さった氷菓子の絵が描かれたボタンを押すとガコンッと中で落ちる音を立てた。取り出し口からそれを取り出し隣に設置されているベンチへと座った。
「……はずれ、か」
ガリガリと歯で甘い氷を砕き、口から引き抜いた木の棒を見つめるも何も書かれてはいなかった。
俺はゴミ箱に棒を投げ捨てるとグッと身体を伸ばしガラス越しから外を睨みつける。
「今日も暑いな…」
真っ青に広がる夏らしい青空を眺めながらそう呟きエレベーターへと乗り込んだ。