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    romuro_01

    @romuro_01

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    romuro_01

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    気が付いたら年越ししていたバディ。

    CP無し。捏造あり。生存IFです。
    2022年の書き納め。

    #GWT
    #GW:T
    #KK
    #伊月暁人
    izuki-chan
    #バディ
    buddy
    #生存IF
    survivalIf

    天狗のご利用は計画的に「KKッ! これで何体目」
     影法師が飛ばしてくる、看板の形をしたエーテルの塊を最小限の動作で避けながら、暁人は相棒に向けて叫んだ。
    「そんなの、いちいち覚えてられるかッ!」
     沢山だよッ! 姿は見えないが、少し離れたところから聞こえる、連戦からくる苛立ちに叫ぶ相棒の声を聞きながら、眼前の敵を見据えた。
     距離を詰めてくる影法師達から視線は外さず、ギリギリまで引き寄せて、掌に集中させた水のエーテルを放つ。手の中で限界まで圧縮された水の刃は、前方にいた影法師達を文字通り切り裂いた。
     同時にガラスが弾け割れるような、甲高い破裂音がいくつも響いて、影法師達が動きを止める。不自然に体を仰け反らせて動きを止める彼らの身体は歪に綻んでおり、胸部から禍々しい光を放つ彼らの心臓であるコアが露出している。間髪入れずに霊子のワイヤーを伸ばし、コアに絡めて引き抜くと、確かな手ごたえと共に、影法師達の身体は砂のように崩れて跡形もなく消え去った。
     軽く息を整えて、KKの加勢をと思い振り返ったが、どうやらあちらも片付いたようだ。数体のマレビトの影が空気に溶けていくのがKK越しに見えた。続けて、裂紅鬼らしきマレビトが形を失って消えていくのと、そのコアを踏み砕いたのだろうKKの足が、地面を強く打つ音が聞こえたのは同時だった。
     相変わらず戦い方が乱暴だなぁと思うが、KKの苛立ちも分からなくはないので、何も言わないことにする。
     本当ならば、今頃はアジトの皆で年越し蕎麦を食べているはずだったのだ。年末だというのに(年末だからこそ、という考え方もあるが)朝からマレビト退治に駆り出され、それだけならまだ良かったのだが、急遽妖怪や幽霊の依頼も片付けることになり、気が付けば朝から晩まで走り回ってくたくただ。
     特にマレビトに至っては、あちらも張り切っていたのか、年末在庫一掃セールのごとく次から次へと遭遇するので、「いい加減にしてよ!」と思わず叫んでしまいたくなるほどだった。だが恐らく、今年最後の仕事は今終わった。
     今日一日の出来事を思い出して、気が滅入りそうになるが、自分までそんなことでは良くないと、気持を切り替える。帰ったら年越し蕎麦が待っている。今年はかき揚げと海老天を奮発した分、余計に楽しみだ。
     戦闘で張っていた気を緩めるために、胸に溜まった息をゆっくりと吐き出す。
    「ふぅーッ……。これで終わりかな」
    「だろうな」
     タクティカルジャケットの裾を払ったKKが立ち上がる。
     下唇を触る仕草に、いい加減そろそろ煙草が吸いたいのだろうなと、何となく考えていることが分かって笑ってしまう。
     KKの元に向かいながら、暁人はギラギラと輝くネオンに彩られた街に視線を巡らせた。見知った渋谷のようにも見えるが、現実のそれとはどこか違う。ビルの建ち方や、看板の配置、表札の文字。そのどれもが通常ではありえない法則で成り立っている。まるで人々が思い描く渋谷を一つ一つ無理やり繋げた、歪なパッチワークのようだ。
     一つとして同じ物がない、この一風変わった景色は嫌いではなかった。じっくりと観察できるのはマレビトを祓った後、この空間が崩壊する僅かな時間しかないので、それが少し残念に思う。
     急速に端から白く霞んでいく視界に、マレビト達が作り出した空間が崩壊していくのを感じ、暁人は目を閉じた。
     世界が切り替わるのは一瞬だ。
     ざわざわと聞こえてくる喧噪に包まれて目を開けると、先ほどまでいたはずの429の屋上だ。
     屋上には暁人とKKの二人しかいないが、夜の渋谷は人で溢れている。今日は大晦日と言うこともあり、更に輪をかけて人が多い。年明けを渋谷で迎えようと、集まって来る人たちで駅前はさらに賑わっている。人々の声がまるでうねる波のように聞こえてくる。
     気が付くと傍に立っていたKKが、ボディバックから取り出した煙草を咥えて、ライターで火をつけているところだった。
     目を閉じて、ゆっくりとフィルターを焼きながら、ニコチンを吸い込んで肺を満たす。なんとも旨そうに吸うものだ。
    その姿を見ていると、久しぶりに吸いたいような、そう気持が傾きそうになって、もう辞めたんだったと思い直す。
     ちらっと視界の端に見えた、屋上のドアに張ってある張り紙を確認してため息をついた。
    「KK。ここ、禁煙だって」
    「うるせえ。こちとら今日はまともに吸えてねぇんだ。ニコチン中毒者、舐めるなよ」
     どうせ誰も来ないから良いんだよ。と口を尖らせて言い、紫煙を吹きかけてこようとするので、慌てて距離を取る。KKはボディバックから携帯灰皿も取り出して、暁人に見せつけるように、その中に灰を落とした。証拠の隠滅も抜かりない。
    「はぁ~、そういう問題じゃないだろ」
     一応、言ったからな。
     念を押しても、はいはいとまともに取り合わないKKを放って置いて、空を見上げる。雲一つない素晴らしい冬空だが、429自体のライトや街の明るさで星はあまり見えない。それではと、視線を下げて渋谷の街を見ると、車が走っていない道路や、歩道の白線がやけにはっきりと見える。歩道は道路とは真逆で、集まった人たちが駅まで続く歩道を埋め尽くして、なんだか巨大な生き物のようにも見える。その人の波の中から、交通整備の警察官が持つ誘導棒の赤い光がちらちらと見えた。交通誘導のアナウンスも定期的に流れており、この人波に逆らってアジトに戻るのは、かなり苦労しそうだなと、思う。
    「年末って、毎回こんな感じなのか」
     ぽろっと零れた言葉は、眼下の渋谷に集まる人に対しての言葉か、それとも今日一日走り回ったことに関してか。どちらでもあったが、KKは後者の話だと受け取ったようだ。
    「概ねそうだな。今年は特に多かったと思うが。
    人が集まってどんちゃん騒いでいるからな。その熱気に当てられてはしゃいじまったんだろう」
    「はしゃいでるって……マレビトも?」
    「ああ、そうだよ。年末はどいつも、溜まってたものが一気に解放されるんだろ」
     あいつらみたいになと、KKは下を指さした。恐らく年越しに集まっている人たちの事を言っているのだろう。
    「そっか。じゃあ来年も大変だ」
    「そうだな」
     429から見下ろす渋谷は、夜に負けないギラギラとした明るさを伴って、賑やかだ。ここに集って年明けを待っている人たちは、皆お祭り騒ぎがしたくて集まっただけかもしれない。けれども、こんなに多くの人達が集まって、年が明けることを楽しみにしている。なんだか自分まで、その中の一人になった気分になる。
    (来年に向けて、皆がワクワクしている)
    「なんだか、良いね」
    「ん?」
     なんか言ったか。そう言ったKKの声に、下から上がった大勢の声が重なった。
     一瞬何が起こったのかと、二人で顔を見合わせる。再び聞こえてくる声に耳を澄ませる。
    『……ーち……なー……』
     大勢の声は言葉が重なって、何を言っているのか分からない。少し考えて、思い当たるものが一つしかなく、それが年越しのカウントダウンだと気づく。
    「え、もう!?」
    「そうみたいだな」
     慌てて腕時計を確認すると、時刻は23時59分55秒。驚いている間にも秒針は進んでいく。カウントダウンが進むにつれて明確に声が揃って、聞こえてくる声も大きくなる。
    『3……2……1…………ハッピーニューイヤー!』
     その歓声が地響きのように、音の波となって下から昇ってくる。拍手の音、雄叫び、黄色い声。指笛も鳴りやまない。誰かがスピーカーで流しているソーラン節や祭りばやしも聞こえて来て、もう何が何だか分からない。とにかく新年を祝うという勢いだけが伝わってくるが、それだけで十分だった。
     ふと、あの日の記憶がフラッシュバックする。あの夜はネオンだけがギラギラとしていて、人は一人もいなかった。人がいない分、街は歩きやすかったが、どこか不気味で寂しい感じもしていたのだ。だが、今はどこからこんなに人が集まったのか、分からないくらい大勢の人で渋谷は埋め尽くされている。今は人が多すぎるくらいだが、これが本来の渋谷の姿だろう。あの日、暁人の中に根付いてしまった、強烈な渋谷の記憶が、少し薄れる気がした。
     交通整備のアナウンスが、新年に盛り上がる歓声に負けじと声を張り上げていて、始発が始まるまで頑張るであろう交通課の人たちを、心の中で応援する。
    「年、明けちゃったね」
    「ああ」
     KKが上を向いて紫煙を吐き、頷く。
     年が明ける前にはアジトに戻れるだろうと思っていたのに。今年は、できれば麻里と一緒に年を越したかったのだが、どうやら現実はそう上手くはいかないようだ。
     アジトで帰りを待っている妹や、メンバーの事を思う。今頃、皆は年越し蕎麦を食べているころだろうか。
     そう考えたところで、ジワリと唾液が溢れて、口内を満たした。今まで忘れていた空腹が、思い出したように主張し始める。慌てて唾液を飲み込んで、頭から食べ物を追い出す。腹の虫も鳴り始めたら、KKに食いしん坊とからかわれてしまう。
     そんなことを考え始めたら、もうまともに働くなんてできそうになかった。今日だけで三日分の働きはしただろうし、体力的にもそろそろ限界だ。
    「さて。今日はもう十分すぎるくらい働いたし、帰るか」
     いい加減疲れたしな。年は明けたが、蕎麦食べに帰ろうぜ。
     そう続けて、KKは短くなった煙草を器用に携帯灰皿にしまった。灰が漏れないように、きっちりと封をしたことを確認してからボディバックに仕舞う。
    「そうだね。早く帰らないと。遅いって麻里たちに怒られちゃう」
    「そりゃ怖いな」
    「怒られるのはKKもだからね?」
    「へいへい」
     屋上が繋がっている隣のビルに向って歩き出す。ビルはとっくに閉まっているため、どうやってここから降りようかと考える。真っ先に天狗を思い浮かべたが、ここでは止めたほうが良いだろう。これだけ人が集まっているのだから、誰かに見られる可能性もある。マレビトに対して認識阻害効果のある数珠は、エドが対人用にも改良したらしいが、だからと言って安心はできない。天狗を呼ぶならもっと人の少ない場所に移動してからだ。新年早々、ネットニュースを飾るのは嫌だなと思う。
     あ、と思わず声が出た。KKが何事かと振り返る。新年と言えば、決まりきった言葉があるはずだ。この熱気に飲まれて、それをすっかり忘れていた。今、隣にいる相棒に言いたい言葉だ。
    「昨年はお世話になりました。明けましておめでとうございます。今年もよろしく、KK」
    「ああ、こちらこそ、世話になった。明けましておめでとう。今年もよろしくな、相棒」
    「うん」
     相棒と言う言葉が、なんだかくすぐったくて、頬が緩む。
     あの夜の中で覚醒した力は、今もまだ安定せず、実力はゴーストハンター見習い程度だが、早くその言葉に嘘偽りのない、彼の相棒になりたいと強く思う。
    「仕方ない。これで帰るか」
     KKが隣のビルに天狗を呼び出した。驚いている間もなく、天狗に向かって霊子のワイヤーを伸ばすと、ビルの床を蹴って先に行ってしまう。
    「えッ、それ大丈夫なの!?」
    「早く帰るんだろ? 今日くらい良いだろう、めんどくせぇ」
     KKの声が急速に遠ざかる。危なげなく隣のビルに飛び移ったKKは、そのまま天狗を使ってアジトまで帰るつもりらしい。
    「あ、おいッ! KKッ! ちょっと、待ってよ!」
     早くアジトに帰るためと、KKを追いかけるためだと自分に言い聞かせ、暁人はKKが呼び出した天狗に向かってワイヤーを伸ばした。


    ***


    「ねぇ、これお兄ちゃんたちだよね」
    「え? あ……」
     麻里に渡されたスマホには、『新年の渋谷にス○イダーマンか!?』という見出しで書かれたネットニュースが表示されている。寝ぼけていた意識が、一瞬にして覚醒する。さっと目を通すと、どうやら顔は映っていないようだが、身に覚えがありすぎる。
    「どういうことか、ちゃんと説明してもらわないとね」
     更に凛子と絵梨佳に両脇を固められて、後ずさる。助けを求めるように振り返ると、ソファに座っていたエドと目が合った。だが、静かに肩をすくめて首を横に振るジェスチャーに、援護は望めそうにない。デイルはキッチンでコーヒーを淹れており我関せず。KKは恐らくトイレか洗面所だ。助けてくれる味方はおらず、それはと、口ごもる。

     新年早々、二人してアジトのメンバーに説教をされることになり、なんとも幸先の良いスタートを切ることになったのだった。


    END
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