Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    hitachiakira

    @hitachiakira

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    hitachiakira

    ☆quiet follow

    キャラの口調も解釈も世界観も全て手探り。歴史書編纂龍炎(新世界後)。なんかこの白龍くん、そのうち紅炎の態度にバチギレして国史とは別の歴史書も作らせそうだなと思いました。

    消閑の具 あの男にも何か、あった方がいいんじゃないだろうか。生きがいとまでは言えなくても、生きている間の暇つぶしになるものが。
     俺が生きるために生きて欲しいと言ったのだから、何か今後の生きる理由になりそうなものくらいは渡してやりたい。しかし適したものが何一つ思いつかない。母だった女への復讐に全てを賭けていた間、組織を利用して戦争ばかりする男に憎しみや嫌悪ばかり抱いていた。だからそもそも彼の趣味すら知らない。今に至るまで一度も気にかけなかったのだから、こんな些細なことすら思い浮かばないのは当然だろう。
     確か彼は、─練紅炎はしばしば書庫で歴史書を読みふけっていた。それなら……。

     海も陸も国境もめちゃくちゃになった新世界。以前は平地にあったはずの洛昌の一画で夕暮れを眺めていると、背後から「白龍」と声をかけられた。義兄の紅覇がこちらへ歩いてくるところだった。
     本来流刑の身の義兄たちは沙門島の現在位置の確認がまだとれていないとして、非常時扱いで煌帝国内に滞在している。あんな事件のあとだ、特に拘束などはしていない。が、少し気まま過ぎはしないだろうか。 ─もっともあの騒動とこの世界の前では、このまま全てが有耶無耶になってしまう気すらしてくる。なにしろ斬首されて死んだはずの男が魔装で暴れ回り煌帝国の兵を一喝した挙句、各地に出現した塔の破壊にも協力したのだから。……本当にどう処理すればいいんだアレは? アラジンに提案して彼に金属器を渡したのは俺だが、もう今から頭が痛い。

     以前に比べて背が伸びた義兄は、整った顔に険しい表情を浮かべて口を開いた。その雰囲気に少し身構える。
    「いつか会うことがあったら絶対この話してやろうと思ってたのがあってさ〜、今していい?」
    「……なん、ですか」
    「お前バカじゃないの?…─紅炎兄さんに国史の編纂させるなんて」
    「それは暇つぶしになると思っ、違。罰、ではなく…適材適所……うぅ。いつの話ですか! その事業は俺が皇帝から退いた時に凍結したんだから別にいいでしょう?!」
     緊張感が漂っているとはいえ、何事もない状態での義兄との会話が久しぶりで見事に失言してしまった。俺の発言に紅覇はきょとんとして、一番掘り下げられたくなかった部分を聞き返してきた。
    「暇つぶし?炎兄の?」
    「忘れてください」
    「煌帝国の国史の編纂が?」
    「…………歴史が好きなら、暇つぶしになるかと」
    「ふふっあはははは!」
     観念して正直に話すと、彼は弾かれたように笑い出した。どこかの笑いのツボにでも入ったのか、一向に収まる様子がない。震えた声音でそのまま会話を続けてくる。
    「あーおかしい! 白龍おまえ、炎兄が歴史好きだからってあれだけの書物の写しを送ったの? 敗者に勝者の歴史をまとめさせるとか、そういう嫌がらせじゃなくて?」
    「それは…そう受け止められる可能性は考えましたが、俺は」
    「な〜〜んだ。答え次第ではぶん殴ってやろうと思ってたのにただの善意かよ、シラけちゃった」
    「なっ!」
     先程までケラケラと笑っていたというのに、醒めた声で何でもないかのように言ってのける。かつての煌帝国第三皇子はいまだ健在だった。
    「でもお前、炎兄のことな〜んにもわかってないよね」
    「ぐぅ」
     自分でも薄々感じていたことを、彼のもっと身近な人間に面と向かって指摘されるのはかなり痛い。今も昔も、俺はあの男のことを何も分かっていない。紅覇はその長い髪を─兄の紅炎より明るい赤色の髪を─ふわりと翻しながら言葉を続ける。
    「確かに炎兄は歴史研究が好きだけどさ〜。知らないものを知るのが好きなだけで、知ってる歴史をまとめることにそこまでテンション上がる人じゃないよ」
    「……あ」
    「まぁ、お前が寄越した関連書物の中に読んでない文献混ざってたみたいで、僕らが話しかけても上の空なことは何度かあったしぃ? 見当外れってほどじゃないんだろうけどね〜」
    「そう、ですか」
     ─そうならいいが。少しホッとしたような声が出たのが、何故か無性に悔しい。
    「でも監視役のみんなは『紅炎様への侮辱だ』ってめっちゃ怒ってたよ」
    「うぅ」
    「炎兄にはお前の口から直接説明しろよ、じゃないと許さないからな」
     ほとんど沈んだ夕日の最後の一筋が、紅覇の髪に落ちている。彼は興味が失せたからもういいと呟いて去っていった。

     あの男を助命して沙門島へ流した後、煌帝国国史を編纂しろという旨の命令と書庫の中から必要そうな書物の写しを送った。皇族で武人の彼が、自身を罪人と断じた国の歴史に携わる。偽帝の冠を被せられた彼への侮辱と受け止められる可能性の方が高い。
     ただ、歴史研究が好きな彼にとってはそこまで苦ではないだろうと思ったのだ。実際「送られた書物では資料が不十分なので、以下の箇条書きに添った内容のものをよこせ」という旨を、至極へりくだった文面で丁寧に訴える鳥肌の立つような書状が秘密裏に返ってきた。もっとも、俺が皇帝を退く時に国史編纂事業も凍結するしかなかったのだが。
     だから紅覇と兵たちの反応は当たり前だ。新世界で先の見当もつかない現在、たとえ今更でも当事者には意図をきちんと説明しておかないといけない。



    「白龍殿下、私のような者のところに足を運ぶのはおやめください」
    「うるさいヤメロー! 律儀に殿下呼びへ変えるな!! すぐに退位した当てつけのつもりか?! またその喋り方したら怒るぞ!」
    「お前が俺に怒っていない時というのはあるのか?」
    「…………」
     ─イラッ、という音が実際に聞こえるなら今鳴ったに違いない。この男と会話すると5秒でコレだ、もう帰りたい。
     紅覇はフラフラとその辺を歩き回っていたが、紅炎の方は自発的に窓のない部屋を見つくろって島に戻されるまではそこで過ごすと決めたらしい。そのわりに部屋の調度品は整っていた。どこからか運ばせたのか、勝手に兵が持ち込んだのか……多分後者だ。偽帝だ逆賊だと当時使える手を全て使って貶めても、煌帝国の兵たちの彼への忠義を覆すことはできなかった。
    「……紅覇に釘を刺された。以前、国史編纂を依頼した件について弁明したい」
    「国史は国の正当性を主張する重要なものだ。反逆者に携わらせるのはやめた方がいい。国家機密の情報漏洩にも繋がりかねん」
    「違う!……ちがう」
     夕方見たものより真紅に近い赤色が室内灯のぼんやりとした光に照らされている。それを直視できなくて視線を落とすと、今度は木製の義足が視界に入った。……頼んでもないのに、俺の怪我の肩代わりをして無くしやがった足だ。沈んだ声音を奮い立たせる。
    「俺は、お前の! 暇つぶしになるかと思ってあの命令を出した!!」
    「罪人ごときのために国家事業へ私情を挟むのはおやめください、殿下」
    「呆れたからってその口調になるのはヤメローーーー!!!!!」
     この男は人生の8割が無感情なのではないかと思っているが、今何を考えているのかは流石に分かる。何言ってんだこのバカ、だ。
    「お前を生かしたのは俺が生きるためだ。俺に付き合わせる以上、俺はお前が生きる理由を作ってやる必要があると思ったから!」
     足元に落とした視線を上げて紅炎の顔を見る。無表情で俺を見下ろしていた記憶ばかりが思い出されるが、今の彼は少し目を丸くして─…驚いているようだった。眉間にしわが寄っているだけで、案外幼い顔立ちなのではないか。話と全く関係ない考えが頭の片隅をよぎる。
    「でもお前が好んでいたものなんて俺が知ってるわけがない! だからあぁした!!……それが、国史の編纂が、お前をさらに傷つける可能性があるのは、想定していた」
     だんだん声が小さくなる。男はまだ何も言わない。反応が無いことへの焦りも相まって、さらに言葉を重ねる。
    「だけどお前が、書庫で歴史書を読み漁っていたことだけは覚えていたから。きっと、そういうのが好きなんだと思って。お前に何もさせずただ人生を浪費させるのは嫌だから、生きる理由の一つにでもなればと、そう考えていた。あのような形でしか手配できなかったが…………悪かったとは、思っている」
     紅炎の顔を捉えていた視界は、いつの間にかまた床を映していた。静まり返った部屋でお互いに動かない。勢い任せで言わなくていいこともぶちまけてしまった分、正直かなり気まずい。

    「おい、なにか言え」
    「……お前にしては手の込んだ嫌がらせだと思っていたんだが、違ったのか」
    「うるせーーーーー!!どうせ俺は配慮がド下手くそだよ!!!バーーーーーカ!!!!」
    「そこまでは言ってない」
     ふ、と笑う気配がした。思わず視線を上げると、大抵仏頂面な男の口角がほんの少しだけ緩んでいた。金色の瞳が愉快そうに細められる様子を、何もできずにただ眺める。
    「白龍、お前が俺にそんな気の遣い方をするとは思いもしなかった」
     あぁ、この男はやっぱり美しい生き物なのかもしれない。
    「だがお前に何もしてやれなかった男だ。そうやって必要以上に気を回さなくていい」
    「……はァ?」
     自分が出せる声の中で一番低い声が出た。今の話の流れで何を言っているんだ? だんだん腹が立ってきた。そういえばコイツのこういうところが何一つ理解できないんだった。
    「お前の!そういう割り切りのよさが俺は大嫌いだ!! 全員が全員、お前みたいに物分かりよく振る舞えると思うな!!」
     この男と話すといつも俺が怒ることになる。紅炎の方が短気で横暴な人間のはずなのに。俺は間違ったことは言っていないはずで、彼はそれを黙って聞いている。それが分からない。
    「言っておくが俺は国を取り戻したことを何一つ後悔していない! でも父と兄が築いたこの煌帝国を!俺が取り返すまで守り続けたお前を大罪人に仕立て上げたことに!!………後悔を一切感じないと言ったら嘘になる」
     紅炎の金色が揺れる。彼にしては分かりやすく困惑していた。なんだ、この男も困ることがあるのか。
    「だからせめて、お前の暇つぶしぐらいは俺に用意させてほしい」
     この際だ、紅玉に掛け合って凍結していた事業を再始動させてしまおう。きっと以前ほど制限に苦労することはないはずだ。
    「白龍」
    「……なんだ。まだ何か言うつもりか」
    「次はもっと俺が読んでなさそうな書物を持ってこい」
     肩のあたりでゆるくまとめられた赤い髪が、灯りに照らされて輝いている。この感覚にもいつか慣れる日が来るのだろうか。
    「─わかった」


     …─会話を中途半端に立ち聴きしていた紅玉が、何かを少し勘違いして白龍を振り回すのは2日後のことである。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏💖💯💕💞🙏💖👏👏💞💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works