苦くて、甘い キーンコーンカーンコーン。鐘の音とともに学校を飛び出して、家路を急ぐ。階段を一段飛ばしで駆け上がって、ただいまー! と玄関に駆け込んで、大急ぎで身支度を整える。
鞄の中には、着替えと歯ブラシと、財布に携帯。母ちゃんに持たされた手土産のプリンはぐちゃぐちゃにならないように手で持っていくことにした。兄さんのお下がりの香水をひと吹きして少しだけ背伸びして、意気揚々と家を飛び出した。ようやく、この日がやってきた。
最寄り駅から四十五分。『今駅着いて電車待ちです』と黄色い線の内側でメールする。『分かった。気をつけてな』とすぐに届いた返事に頬がだらしなく緩んでしまう。
電車に揺られながら、携帯を握り締めて窓の外を眺める。夕焼けが照らす見慣れた風景が、少しずつ知らない景色に変わっていくのが、何だか落ち着かなくてドキドキしてしまう。
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