まるで、さも困った様子でもなく、あっけらかんと言うものだから匋平は開いた口が塞がらかなった。
困った、とまず言ったのは直明だ。だからそれはさぞかし困ったことなのだろうと思い、とりあえず匋平はどうした、と聞き返した。しかし、いやいやこっちのことだよ。と勿体ぶって微笑みながら首を振るものだから、こっちもそっちもどっちだよと匋平は腕組みをした。そもそも「こっち」と言われるのは釈然としない。昼間の仕事のことならば当然それは「そっち」のことだろう、だがわざわざここで口にしたのだ。そして、それでもいいかとは思うが匋平の「どうした」が受け取られずに宙に浮いている、それを「こっち」だと突き放されてはやはり人間、釈然としないものだろう。
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