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    umeno0420

    @umeno0420

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    umeno0420

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    巌窟王の召喚時からエデが見えているカルデアのぐだが、廃棄孔への螺旋階段でエデと「あんな良い人好きになっちゃうよね〜」と笑い合って失恋する話です。

    #巌窟王(FGO)
    kingOfGantry
    #ぐだ子
    stupidChild
    #エデ(Fate)

    恋の話を聞かせてあげる[確認事項]
    ・英霊異聞ドラマCD発表時に書かれたパートと、奏章2以降に書かれたパートから成ります。
    ・あらゆる事実の誤認、捏造が含まれます。
    ・あなたの責任に基づきお読みください。



    ⭐️ ⭐️ ⭐️ ⭐️ ⭐️ ⭐️ ⭐️ 💫









    彼女の話をしよう。
    いつかパリで、善人に仇なすあらゆる悪を打ち滅ぼした復讐者。
    その人を愛でもって救った寵姫の話を。

    私の話もしよう。
    いつか輪廻を瓦解されたマンションで、哄笑と共に立ちはだかったアヴェンジャー。
    その人と世界を救った共犯者の話も。

    恋の話を聞かせてあげる。
    愛の話は、教えてあげない。


    #


    彼女の話をしよう。

    彼女。可憐にして玲瓏な令嬢。その髪は朝焼けと夕焼けの空を抱く。頰は白磁の器みたいで、唇は日差しを照り返す果物に似ている。まとうターバンは新雪、あるいは花びら。満月のようでいながら太陽のような金の装飾品が体のあちこちに降り注ぐ。それは彼女が動くたびに、しゃらんしゃらんと音を立てた。地上のあらゆる美しさを摘みあげて、とびきり上手に仕立てあげた女の子。

    だけど彼女のどこにも、海を思わせる青はない。だってそれだけは彼女に必要のないものだから。

    美しくて、可愛くて、不思議で不可視で不可侵な女の子。彼女は巌窟王と共にカルデアに召喚された。

    私は最初、彼らはふたりでひとりの英霊なのかと思ったくらいだ。それくらい自然に、彼女はかのアヴェンジャーに寄り添っていた。

    だけどその日のうちに気づいた。どうやら彼女は私以外の誰にも見えていない、と。私からすれば彼女を連れ歩いているように見える巌窟王にすらも、その存在はまるで認識されていない。彼女はふわふわと、ひらひらと、離れることなく、巌窟王の背後にいるというのに。どうして見えていないのだろう。それにどうして、私にだけはその姿が見えるのだろう。分からないことばかりだ。

    そうやってちらちらと、時折不躾なほどじっと見つめていたからだろう。彼女が、私を、見た。

    「あ」

    謝ろうとして、言葉は鎖される。だって見入ってしまったのだ。

    緑の瞳。今、その眼差しに閃光はない。ただとろりとした輝きが内包される。いつまでも見つめていられる静かな翡翠。表面に刻まれた傷は唯一無二でありながら、万人が認めざるを得ない美しい光を零す。幾万もの物語を抱き込んだ、形容されるための言葉が尽きることのない瞳。見入るほどに魅入られて、自ずから膝をつきたくなるような気品がここにあった。

    幸いか、あるいは狙い澄ましたのか。巌窟王は天草との会話に夢中になっていた。だから私たちの邂逅には気がつかない。彼女がそうっと象牙の人差し指を唇の前で立てたことに、気がつかない。

    「ないしょう、です」

    言葉はそれで足りた。いいや、本当はこんな一言すら余剰であった。それくらい、雄弁な慈しみでもって彼女は微笑んだ。


    #


    彼女、なんて形容しているけれど、私はその正体に気づいている。というか、巌窟王エドモン・ダンテスに付き従う少女なんて、寵姫なんて、あんなに愛おしそうに彼を見つめるひとなんて、この地上でたったひとりしか思い当たらない。

    実際に、巌窟王の目を盗んで問いかけてみたこともある。いつかのクエストで、確か彼が宝具によって四方を蹂躙していたとき。彼は血の底から這い上がるみたいに忌々しそうに、そのくせどこか晴れた冬空のように高らかに、かつて自身を戒めたものの名を叫ぶ。それを横目に、私はふわふわと漂う彼女を仰ぎ見た。

    「ねえあなた。あなたは、やっぱり」

    彼女は首を振り、私の声を遮った。そうして微笑む。

    「いいえ。わたしは、その名に相応しい者ではありません。どうか、お呼びにならないで」

    小さく首を振るごとに、朝霧のような髪が震えた。紡がれる言葉はころころと、まるで蛍の光に似ている。朝になれば消えてしまう、それが摂理であると理解した声。

    私は重ねて問いかけようとして、勝鬨に猛る笑い声に意識を奪われる。振り仰ぎ見た巌窟王は遠雷に似ていた。熾烈で、鮮烈で、一瞬のうちに何もかもを破壊しようとする眩しさ。だけど激しい雨ほど長くは続かなくて、そう在れかしと言わんばかりに空から拭い去られるものだ。

    だから私は、足を踏み外すように理解できた。

    彼の、巌窟王の、私を共犯者と呼び手を差し伸べたあの人のクラスは、アヴェンジャーだから。彼は恩讐の果てに寵姫と結ばれたと語られる、エドモン・ダンテスというキャラクターではないから。

    もう一度、私は彼女を見上げる。エメラルドの眼差しは一心に巌窟王を見つめていた。白磁の頬に浮かんでいるのは笑みだ。今にも掻き消されそうな、そのくせ誇りにかけて維持される、淡い微笑み。それはあらゆる笑顔の公約数。見た人にどうしようもない愛おしさを抱かせる。けれど、彼女自身はちっとも幸福そうには見えないのだ。その齟齬がどうにも苦しくて、こっちまで悲しくなるくらい。

    すくえないのです。か細い声だった。 鉱物の瞳が帯びる輝きはひどく冷たく、誰かのための熱源にはなりえない。わたしはかのヒトを、すくえません。とっくの昔に、諦念が塗りたくられてしまった声だった。

    「だってここにいるわたしは、泡沫よりも儚い、最早求められることもない、死人の寝物語なのですから」

    彼がエドモン・ダンテスではなく巌窟王というサーヴァントである限り、人理に復讐者の化身であると定められた限り、彼女は自らの名を名乗れない。何故ってあの名前は、存在は、彼の物語を輝ける海へと連れ去ってしまえるから。海の向こうにあるという、明るく、暖かな国へと攫っていってしまえるから。きっと、だからこそ殊更に、彼は自らを巌窟王だと名乗るのだろう。アヴェンジャーとして、ここに在るために。

    それでも、彼女の瞳は絶えることなく遠雷の輝きを捉え続けていた。ままならないなあ。胸の内だけで小さく呟いた。彼はどうしようもない窮地に陥ると、死にそうな声であなたの名前を呼ぶのに。それはきっと、私にしか聞こえない声だ。玉の緒の端っこを掴んでしまっているが故に、届いてしまった言葉。巌窟王をサーヴァントとして使役するマスターだからこそ知ってしまった、あり得ざる願い。

    私はそのままいくつかの言葉を言い淀んで、最後は胸の前で両手を挙げた。

    「分かりました。私は、あなたの名前を尋ねない。でも言いたくなったら教えてほしいな。ずっとあなたって呼ぶのも、なんだか他人行儀だしね」

    そう答えれば、彼女はほんの少しだけ目を丸くした。そうして微笑む。その笑顔は美しくて、可愛らしくて、何より悲しくて、だけど確かに暖かだった。ありがとう。小さく呟いた声に、私も微笑みで返す。彼女みたいに素晴らしいものじゃあないけどね、でもせめて、この人のように優しい誰かにはなれたら良いと思ったから。

    そんなわけで、名前のない彼女と私の交流は人の目を盗みながらひっそりと続いた。彼女は主に巌窟王の側にいるから、私達は決まって言葉を使わずにコミュニケーションする。朝に目が合ったらおはようと微笑みかけたり、巌窟王の少し分かりにくかったり意地悪だったりする言葉に唇を尖らせたり、特異点にある美しい景色を共有したり、それから、いつだって自分を大事にすることのない彼の行動に、仕方のないヒトだと目を伏せたり。

    巌窟王という男を介して、私達はほんの少しずつ交流していく。そんな日々だった。世界が滅んでも、蘇っても、白紙になってから再会しても、ずっと。

    夢を見るまで。


    #


    悪夢を、見せられるまで。

    箱庭の東京から帰還した後にあなたが自分はエデであると名乗ったから、私は彼が本当にいなくなってしまうのだと理解した。

    意図は分かるよ。愛されてるって、これ以上なく自覚した。私には至るべき場所があるから、過去全てを胸に焼き付けることは選ばなかったんだ。だからこそ、こんな最後は嫌なんだ。

    たった4文字の願いすら破却して、綺麗な眼差しだけを遺そうとしないで。それが優しさで、正しさだって? 知ったことか!

    許さない。まだ、離さないんだから。


    #


    「わたしはここまでのようです」

    ふわりと、彼女は私から距離を取った。遠い遠い銀河を縫いつけたベールが翻る。そこはまだ永遠に続くような螺旋階段の途中であった。いや、今この目で見えている距離は概念上のものだからあてにならないんだっけ。まあ自らの精神の裡がこんな違法建築になっている時点で、目で見えていると知覚するものを信じるのは諦めた方が良いのだろう。

    目で見て分からずとも、彼女との別れはここなのだろう。

    「……エデ、さん」
    「はい」

    彼女の名前は、どうにも口に馴染まなかった。あなたと呼んでいた期間が長かったから? それとも、この唇がわなないているから。覆すことのできない別れの気配が胸が跳ねさせる。鼓動が声帯を不規則に揺らした。言葉を阻害するように。それでも今、言わなければいけないことがある。ここが薄暗い、鬼火だけが青く照らす地下で良かった。そう思ってしまうことは逃避だろう。ごめんなさい。だけど、逃げるのはこれで終わり、終わりにするから。

    彼女を仰ぎ見る。そこにはもう白磁の微笑みはなかった。桜桃の唇は真一文字に引き結ばれ、瞳はひたすらに私を見つめ返す。エメラルドの劈開に映るのは怒りだろうか。それとも諦め、あるいは侮蔑。いいや、それだけはない。あなたは、そんなことをしない。結晶を成す宝石の視線を、せめて私からは逸らさない。

    「私、巌窟王のことが、好き」

    私と視線を合わせたまま、彼女は、エデさんは、笑った。

    それは予め失われた理想郷を、だからこそ誇るみたいに気高い笑みであった。

    「わたしもいつか、彼に恋をしました」

    復讐と愛の物語たる、『モンテ・クリスト伯』。そこに語り継がれる恋こそ、正しく彼女が誇りと呼ぶべきもの。そう理解させられる、あまりにも圧倒的で、苛烈で、燃えたぎるほど強制的な許しでもって形作られた笑顔。

    私たちは顔を見合わせて、いつかのように、いつものように、どちらともなく笑ってしまう。

    「分かるよ」
    「分かります」
    「だって、さ」
    「それは、ええ」

    あんな素敵なひと、好きになってしまう。

    私たちの声はぴたりと揃ったわけではなかった。だって歩んだ道のりが違う。私たちの思い出は私たちそれぞれ自身のもので、決して共有されるものではない。ただ結論だけは同じだった。彼から与えられたものは、きっと同じであったから。愛、だったから。

    「エドモン・ダンテスの寵姫。彼にとって、唯一の救済であるあなた」
    「復讐者たる巌窟王の眼差す一番星。彼にとって、唯一の運命であるあなた」

    抱擁は一瞬だった。日向の花束に似た芳しさと、ほんの少ししょっぱさが胸をくすぐる。同じ魂に救われて、同じ魂に恋をしたもの同士だもの。もう、言葉は要らない。私は2段下の段へ爪先を置き、そのまま螺旋階段を駆け下りて行く。

    「どうかずっと、あなたの道行に幸あらんことを」
    「ありがとう。ずっと、頑張るよ。行ってきます!」

    駆け下りていく。
    息を切らせて、恋するように。

    螺旋階段を下りる。下りる。下りる。思い出が巡る、巡る、巡る。いつだって針に糸を通すような窮地を掻い潜ってきた。そこには光があると、私の道行は間違っていないと、教えてくれたのがあなただった。難敵を薙ぎ払い、障害を焼き尽くし、私の背に喝采を惜しみなく与えてくれた。

    あなた。
    巌窟王。私のアヴェンジャー。
    私を愛している、あなた。

    彼はいつだって炎であった。雷であった。人智の及ばない、人倫はお呼びでない、神の如き怒りそのものであった。けれど基底には、愛があった。その愛こそを薪に進むもの。ならば神をも恐れぬ復讐劇を完遂した男の、モンテ・クリスト伯の抱いた愛の大きさなんて語るまでもない。人理だってそう認めている。

    あなた。
    私を愛している、私に恋をしない、あなた。

    「私、キミの愛に報いれるかしら!」

    階段を駆け下りながら、無理にでも微笑んでみせる。ここが長い長い階段で良かった。脈が早いのも、顔が赤いのも、いくらでも誤魔化せる。走るうち、涙も乾いてくれるでしょう。だってほら。巌窟王に再会するとき、私は星のように笑わないといけないんだから。

    キミは私のことを星と呼ぶけれど、それは元々あなたの輝きなんだよ。あなたの炎をこの身に受けて、私は光と熱を得たんだ。

    だからこれは、もうおしまいの話。私の、失恋の話。

    だけど、彼の愛の話は私のもの。

    ここから先は、誰にも、教えてあげない。

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    umeno0420

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    恋の話を聞かせてあげる[確認事項]
    ・英霊異聞ドラマCD発表時に書かれたパートと、奏章2以降に書かれたパートから成ります。
    ・あらゆる事実の誤認、捏造が含まれます。
    ・あなたの責任に基づきお読みください。



    ⭐️ ⭐️ ⭐️ ⭐️ ⭐️ ⭐️ ⭐️ 💫









    彼女の話をしよう。
    いつかパリで、善人に仇なすあらゆる悪を打ち滅ぼした復讐者。
    その人を愛でもって救った寵姫の話を。

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    いつか輪廻を瓦解されたマンションで、哄笑と共に立ちはだかったアヴェンジャー。
    その人と世界を救った共犯者の話も。

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    彼女の話をしよう。

    彼女。可憐にして玲瓏な令嬢。その髪は朝焼けと夕焼けの空を抱く。頰は白磁の器みたいで、唇は日差しを照り返す果物に似ている。まとうターバンは新雪、あるいは花びら。満月のようでいながら太陽のような金の装飾品が体のあちこちに降り注ぐ。それは彼女が動くたびに、しゃらんしゃらんと音を立てた。地上のあらゆる美しさを摘みあげて、とびきり上手に仕立てあげた女の子。
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