びーちさいど☆バカンス(悠脹・W女体化)白い雲。青い空。
サンサンと降り注ぐ太陽の光。
鮮やかな花々を縁取る濃い日陰の色。
青く照る海に白く輝く砂浜。
響く潮騒の音。
浜辺には巨大なヤシの木がそびえ立ち、浜辺に豊かな影を落とす。
カラフルなパラソルの下には開放的な姿をした人々が心地よさそうに眠り、同じくカラフルなサーフボードを持った人々がときおりうねり上がる波に乗ろうと意気揚々と波に駆け出していた。
そんな真夏のイメージをペタリと貼り付けたようなウソみたいに鮮明で美しい浜辺。
ああ、まさしく常夏。
あこがれの南の楽園。
ここは日本から遠く離れた南国の島だった。
『お姉さん、日本の人だよね』
「そうだ」
『いま一人?』
「人を待っている」
日が天高く燃える真昼。
海辺に建てられた木造の洒落たビーチサイドバー。
その片隅で二人の日本人男性が一人の女性を口説いていた。
彼らも他の皆と同じようにこの南国の海に――そしてそこに集まる人々に惹かれて観光にやってきた若い男たちだった。世界的に有名なこのビーチは各国から来た観光客で溢れかえっている。日本人観光客に出くわすことも多い。だが、せっかく海外に来たのだから海外の人々と交流したいというものだろう。かく言うこの男たちも旅先でのインターナショナルな出会いに胸をときめかせてこのビーチにやってきたわけだが――結局、その目はこのとびきり美しい日本女性に奪われてしまった。
彼女は驚くほど長身だった。それこそ周りの外国人観光客たちと比べても引けを取らないほどに。その長身に東洋の洗礼された美しさが内在していた。高い位置で結われた艶やかな濡羽色の髪。深い黒の瞳。太い眉。白磁のような透明感のある白い肌。フェイスペイントなのだろうか、顔を横切るような一筋の線と目元の深い隈が妖しい魅力を放っていた。
彼女は他の海水浴客と同じく水着姿だった。だがその美しさと言ったら比類を絶するほどだ。ホルターネックの紺色のビキニがその素晴らしく豊かな胸を柔らかく包んでいて、髪を結っていることでそのしなやかな首筋や背中が惜しげもなく夏の陽の下に晒されてる。切れ長の目と通った鼻筋が凛として美しいが、リボンのついたつばの広い麦わら帽子とビキニにあしらわれた白い小花の模様がどこか幼い子供を思わせた。どっしりと重量感のある胸を支える彼女の腰はあまりに細く、そして同時にその鍛えられた腹筋の凹凸に驚かされる。腰にはやわらかな白いパレオが巻かれていてその足元はほとんど覆われていたが、片側にある結び目の下、スリットのように開いた部分から脚が覗いている。シンプルなクリーム色のビーチサンダルも相まってそのすらりとした長い脚が目を惹きつけていた。
『脹相さんって言うんだね』
『すげー綺麗! あ、これ嘘じゃないよ!』
「そうか」
喧騒を避けたバーカウンターの裏、店の端にもたれていた彼女は名前を聞くと素直に答えてくれた。男たちは彼女の気分を害さないように慎重に話しかけた。しかし男たちが思ったよりも脹相は気難しいタイプではないようだった。俯きがちだし一抹たりとも微笑まないしぶっきらぼうな態度ではあるが、決して嫌がる様子はない。質問には答えてくれるし、腰や手にソフトタッチをしても嫌悪を示すようでもない。男たちはこれ幸いと彼女の両脇に立ち距離を詰め、にこやかに話しを進めていった。
「美味しい地元料理の店あってさ!今から行かない?」
「行かない」
「じゃあ船は?俺たちデカいクルーザー借りてるんだ~乗ってみない?」
「乗らない」
だが脹相は〝別の場所に移動しよう〟という提案にはてんで乗ってこなかった。店の端の壁にもたれ掛かっていたままでは落ち着いて話も出来ないし、カクテルの一つを奢ることも出来ない。せめてバーのカウンターに座ってくれまいか。男たちはあの手この手で脹相を動かそうと必死だった。
「おまたせ~! あれ? どしたんねーちゃん」
にっちもさっちもいかない押し問答を続けていると、突然背後から明るい声がした。
「悠仁!」
脹相が顔をあげて微笑む。さっきまでのむっすりとした表情が嘘だったかのように優しい微笑みだった。男たちが振りかえった先には――これまた若い女性がいた。
「こんちは! オニーサンたち、ねーちゃんの知り合い?」
にぱーっ!と元気のいい人懐っこい笑顔が眩しく、男たちは彼女に目を奪われた。
ぱっちりとしたアーモンド形の大きな目とチョコレート色の瞳。ベリーショートのふわふわとした桃色の髪と刈り上げられた後ろ髪。こんがり焼けた小麦色の肌。幼い顔立ちから分かりにくいが二十歳は超えているのだろう。手には蓋の空いていないハワイアンビールの瓶を二本手にしていた。脹相ほどではないが背が高い。そしてシックな姉と比べ、彼女はスポーティーな装いだった。シンプルなデザインのレモンイエローのビキニ。豊満ではないがカタチの良い弧を描くその膨らみと、惜しげもなく晒された引き締まった手足と腹筋がアスリートのそれを思わせた。リーフの意匠があしらわれた裾の広がったショートパンツから健康的に焼けた筋肉質な脚が伸びている。足元の無骨な黒のスポーツサンダルが彼女の活発さをあらわしているようだった。
悠仁と呼ばれた彼女は、脹相とはまた異なる雰囲気の愛らしい女性だった。
「何でもないんだ。行こう」
脹相が男たちをすり抜け、悠仁の片側に寄り添ってその腕を引く。小麦色の肌と白磁色の肌のコントラストが美しい。異国の海に現れた美しい姉妹の姿に、男たちは思わず感嘆の声をあげた。
「うわ、なになに! ちょー可愛いじゃん!」
「脹相さんの妹ちゃん? 美人姉妹だね」
「丁度いいしさ! このまま四人でクルージング行っちゃおうよ、ね?」
何が丁度いいのか。それはよく分からなかったが、今はどうでもよかった。どうしても彼女たちと仲良くなりたいのだ。男たちは身を乗り出し、身振り手振りを交えたマシンガントークで何とか彼女たちを口説き落とそうと必死にアピールした。
「んー、ありがたいけどさ、俺らそう言うのちょっとダメなんよ。ごめんな」
悠仁はしばらく彼らのその様をポカンとした顔で見ていたが、やっと意図に気がついたのか申し訳なさそうに頬を掻いた。脹相はその間ずっと悠仁の腕にしがみ付き、早く行こうとせがんでいた。
「大丈夫だって! 一緒に海の上で夕陽見ようよ。すっごく綺麗に見えるんだよ。そしたらすぐ戻るからさ。ほら行こ!」
「えーっと…んー…そーだなー」
「おい、悠仁が困っているだろう。いい加減に……」
あやふやな返答をしながら悠仁がチラリと姉に目線を送る。
助けを求めていると思ったのだろうか、脹相はずずい!と悠仁を守るように一歩前に出る。
―――だが、そんな脹相の身体はすぐにひっくり返されてしまった。
「ねーちゃん」
ぐいっ、悠仁が脹相の腕を引いた。そして、
ちゅっ
男たちの目の前で――ふたりは唇を重ねた。
男たちは何が起きたか分からず、ぽかんと口を開ける。
突然のキスに驚いたのは脹相もだった。
慌てて「ゆうじっ!」と抗議の声をあげようとするが、その口を黙らせるように悠仁の舌が滑り込む。その瞬間を男たちはハッキリ見た。
姉は慌てて体をねじり逃れようとするが、妹がそれを許さない。
妹は片方の手に瓶を持ったままだった。だが残りの片腕で姉の柳腰を抱きしめ、逃げ道を塞いだ口づけはどんどん深くなる。
触れるだけのバードキスから唾液を混ぜ合うカクテルキスになっていくその工程をゆっくりと丁寧に見せられ、男たちは口を開けて固まることしか出来なかった。
淫らな水音を立て始めた口づけはさらに深く、そして長く続いた。
潮騒さえも聞こえない、永遠にも思えた時間が過ぎて、やがて抵抗していた姉の身体の力が抜けて腰が切なげにカクカクと揺れ始めて、やっと―――名残惜しむような銀の糸で唇を繋げながら、長い長い口づけは解かれた。
妹は後ろに倒れそうになる姉の身体を抱きとめると男たちを振り返り、
「こういうことだから。ごめんな?」
と言って目を細めて笑った。
先ほどの太陽のような笑みではない。獰猛な笑み。威嚇のために牙を見せて笑う、肉食獣のそれ。
男たちはまた別の意味で体を硬直させた。
「ゆ、悠仁……♡」
甘く掠れた声に男たちの目線が脹相に移る。
妹に抱きとめられた脹相の顔は真っ赤だった。口づけによって白い肌は首まで赤くなり、砕かれた腰はゆらゆらと揺れ、妹の腕に支えられてやっと立っていた。甘える猫のように妹の首元に頭を寄せ、長い脚をもぞもぞと摺り寄せている。
「ん、分かってる。ホテル戻ろっか」
悠仁は優しく微笑み、真っ赤に染まった姉の目元に口づけを落とした。
「あ、あの……」
「じゃーねオニーサン達! あ、これあげる! 大丈夫まだ開けてないやつだから!」
男の一人がやっと出した掠れた声に、悠仁はまたにぱーっ!と太陽のように笑いかけると片手に持っていた二本のビールの瓶を手渡した。そしてエスコートするかのように姉の腰に腕を回しその手を取ると、男たちを背にして悠々と去っていた。
ザザァ……という潮騒がやっと男たちの耳に戻ってくる。
嗚呼、まぶたの裏に焼き付いた何度反芻しても呑み込み切れないほどのあの濃厚な光景よ。
嗚呼、この胸を打つトキメキのあまりの所在なさよ。
あとに残された男たちはもはや温くなっていくビール瓶を手にただ呆然と立っていることしか出来なかった。
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俺はなんて駄目な姉なのだろう、と脹相は目を伏せた。
妹に心配をかけて、妹を守れず、妹に守ってもらい、そして、そして――――怒っている妹に興奮してしまうなんて。
そうは思ってもどうしようもなく胸がドキドキして、お腹がじわりと熱くなる。
「ねーちゃん、どこ触られた?」
「っゆう、」
「教えて」
ホテルのエレベーターの中。脹相は妹に壁に追い詰められ、水着の上から来たTシャツの上から臍をくすぐられていた。腰がはしたなく揺れるのを止められず、はぁ、と甘やかな息を吐いてしまう。
「ぁ……こ、腰、と手、だ……!」
「じゃ、部屋戻ったらソコ全部舐めとってあげるかんね」
「ッ……♡♡」
耳元で囁かれる怒気を孕んだ低い声に背筋がゾクゾクと震える。
すぐ近くで香る妹の汗の匂いと、これから訪れるであろう甘く痺れるようなお仕置きへの期待に体が火照る。
「ん、ふぅ、あン…♡」
どこか遠くで、ポン、と到着を知らせる電子音が鳴った。エレベーターの扉が開く前に再び落とされる深く甘い口づけに、脹相は切れ長の目をどろりと蕩かせた。
おしまい