お題:「落書き」「はじめから」11/13「やあ、見て、アーロン、可愛い落書きだ!」
アスファルトの上に白いチョークで丸や星型や様々な太さの線で描かれているそれが、具体的に何だかは解らずとも、歩道いっぱいに引かれた線の勢い、自由にひろがる図形や模様……見ているだけで楽しい。
「なかなか芸術的だな、将来有望だぞ」
ルークは顔を近づけて落書きの細部を観察したり、遠くから全体を眺めたりしていた。
「興味津々だな、散歩中の仔犬かてめえは」
「あ! あれビーストくんじゃないか?! ビーストくんをモデルに選ぶなんて……やはりこれを描いた子は天才!!」
「……イガグリじゃねえのか」
往来に引かれた白墨の線は道行く人達の靴に踏まれ、少しづつ掠れてゆく。線を引いたその小さな芸術家の卵はもうすっかり自分が生みだした図形や模様のことなど忘れているだろう。誰かの心に灯りを点けて、遠い彼方の記憶を想いださせたことも知らずに。
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