悪夢「……ク、スザク、起きなさい」
優しい声に導かれるように闇の中から意識を浮上させると、いつものように穏やかな、それでいてほんの少しだけ眉間に皺を寄せたその人と目が合った。ベッドサイドに腰を下ろしてこちらの様子を窺っている。
「……殿下、」
寝起きは良い方だと自覚しているが何故だか今日はぼんやりと頭が重い。ふかふかで自分には広すぎるこの人のベッドの上で、真白のシーツに沈んだまま小指の先を動かすのも億劫だ。それなのに心臓だけが煩いぐらいに動いている。
「随分とうなされていたよ、大丈夫かい?」
「……」
返事をしようと開いた唇からうまく声が出ずに息だけが漏れたのを、その人は見逃さずいつもの穏やかな表情を曇らせた。曇らせてしまった。自分が、曇らせた。
666