正しい猫の撫で方「オレも路地裏に連れてってくれ!」
「何いきなり」
「フフーン。お前とももう他人の関係では無くなったからな!」
「いや元から他人じゃないよね」
「照れるな照れるな。とにかくお前と深い仲になった以上、お前の大事なキャッツたちとも他人と言うわけには行かない!ひとつ挨拶をしておこうと」
「却下」
「ホワイ?!なぜ!」
「お前煩いし動きも煩いし、猫逃げるし」
「うるさくしない!静かにするから!」
「それに、お前絶対、猫撫でるの下手だし」
「へっ?!」
「明らかに下手そうだし。下手くそ松。」
「下手くそじゃないもん!!あ、いや、ゴホン
…フッ、そうだな。お前はまだオレのテクを知らないからなぁ。オレのゴッドハンドを持ってすれば、どんなキティもメロメロさぁ!」
「ほほーう。大した自信で」
「自信しかない!」
「じゃあやってみて」
「ん?」
「今からおれが猫役やるんで。やってみて。」
「ええっ?!」
「はい。にゃーん。」
ゴロン
「え、ええっと…じゃあ…」
ゴクリ
「よーしよしよしイチマツは可愛いなあよしよし」
シャーーー!!
バリバリ
「いったあああ!」
「はい、不合格。全然だめ。話にならない。」
「そんなぁ」
「あのね。お前のソレは犬の撫で方。十四松とかなら喜ぶだろうけど、猫にそんなんやったら一発で逃げられるよ。おれで練習しといて良かったね。」
「え、いや、絶対こっちの方がダメージでかい。顔傷だらけだし」
「猫に逃げられる以上のダメージなんてねぇよ!」
「ええ…」
「まあいいや。じゃあ交代ね」
「へっ?」
「手本見せてやるからさ、次、お前が猫役やれよ。」
「えええ?!」
「何、嫌なの?」
「いや、嫌というか、えっ?お前が、オレを、撫でるの?」
「せっかく人が親切に実地で教えてやろうってのに…まあ、嫌なら無理には」
「やります!やって下さいお願いします一松様!」
「なに急にやる気出したの怖。まあいいけど…
じゃあ猫になって。はい、そこに四つん這いになって」
「う…こうか?」
「にゃあ」
「へっ?」
「にゃあ、だよ。猫だろ?さんはい、にゃあ。」
「に、にゃあ?」
「よし。
そもそも外の猫は警戒心強いから初見の人間にそうそう近づかない。まずは敵意がない事を示す。」
「な、なるほど」
「にゃ、あ。」
「に、にゃー」
「うむ。
何より大事なのは姿勢、目線を出来るだけ低く、さっきも言ったけど大きな声や速い動きはもっての外。あと、目は合わすなよ。猫にとって目ぇ合わすってのは喧嘩の始まりだからな。」
「にゃ?!むむ…にゃーん」
「よしよし。
でも猫って好奇心も強いから、こうしてゆっくり手を差し出せば、気になって寄ってくる。あ、手のひらを上ね。逆にすると威嚇と思って逃げるよ」
「にゃ。」
「よし。
…おいでー。にゃあ。にゃあーお」
「に、にゃ?」
「チチチッ。おいでー。怖くないよぉー。にゃーお」
「にゃ…にゃー」
「そーうそうそう、良い子だねぇ。
…そんで、猫はまず指に鼻先を近づけて臭いを嗅いでくる。その時も好きなようにさせて、大きくは動かない」
「にゃ…こうにゃ?」
「そうそう、そんな感じ。で、敵意がない事を確認してゆっくり近づいてきたら、こちらもゆっくり指を動かして、こう、鼻先から顎、顎から喉の方を優しくさすってやる。くれぐれも強くやるなよ。初めは触れるか触れないか、あれ?当たってる?あっごめーんうっかり☆くらいな。あくまで優しく、さりげなーく、な。」
「に、にゃ…」
「んで『この人間は痛くしない、気持ちいい事しかしない』って思わせる事ができれば、後は向こうから撫でて欲しいところを押し付けてくる。そこを撫でてやるだけ。」
「んにゃ、ぁあ、にゃああ」
「その内手のひらに重みを預けてくる。ここまできたらもうこっちのもんだ。頭でも背中でも撫で放題。毛並みに沿ってれば怒られない。それでも優しく、ゆっくりは変わらないからな。」
「ああ、あああ…」
「猫によって好き嫌いはあるだろうけど大体頭や耳の後ろはテッパンかな。こんな感じで」
「にゃあああ…んんん…」
「手のひら全体で撫でてもいいけど、慣れてきたらちょっと指を曲げてもいい。仔猫を舐める親猫のベロってザラザラしてるから、そんな感じで、軽く爪を立てて掻く感じで、こう…」
「ふぁ、ああああ…」
「手つきと強さをよーく覚えとけ。
…よーしよーし。良い子だねぇよしよし。」
「…ぁぁ…」
「…こうな?」
「…」
「よし、以上。分かったか?」
「…」
「…分かった?」
「…」
「おい、どうした?」
「…も」
「ん?」
「…もっと撫でてにゃぁ…」
「ええ…」