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    じょうがさき

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    じょうがさき

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    アルユリ温泉アンソロジー様(12/18発行予定)に寄稿させていただいたSSのサンプルです。サンプルは健全部分のみを掲載しています。シリアスからのハピエンHです。

    想いが再び重なる日を「旅行?」
    「ああ。靴を買いに行った時にやってた抽選会で当たった」
     ベッドの上、後ろから私を緩く抱き締めるように腕を回した男が、やや拙い、眠気を感じさせる声で呟く。
     以前も、今世ではない昔にも、同じ寝床に就く際はこんな風によく彼の腕に包み込まれていた。
     私と違って彼、同居人であるアルベールに『前』の記憶はない。
    「ペア券なんだ。だからユリウス」
    「誰か誘いたい人は居ないのかい?」
     アルベールが言い切る前に言葉を重ねると、背中越しに彼が不機嫌になったのが伝わってくる。当たり前と言えば当たり前。何せ私と彼は同居人というだけでなく恋人でもあるのだから。
     ただ、私は彼との関係をこのまま続けて良いか悩んでいる。アルベールが前の、前世の記憶を取り戻す様子がないから。
    「お前以外と行くくらいなら、誰かに恋人や友人と行ってくれと言って押し付けるっ」
     私が同行を断ればアルベールは言葉通りの行動を取るだろう。折角彼が当てた物の恩恵を、本人が全く受けないというのはいただけない。
    「……長い休みは取れないよ」
    「!」
     抽象的な言葉の意味は通じたようだ。彼の雰囲気が和らいだ気がする。直後に触れていた温度が離れて身体が解放され、寝返りを打つと。ベッドから降りて愛用のスポーツバッグの中を探るアルベールの姿が視界に映った。
    「温泉旅館の宿泊券なんだ、二泊三日の。これくらいなら休み取れないか?」
     戻ってきたアルベールが横にはならずベッド端に腰掛けて、細長い紙を差し出してくる。私は寝転んだままそれを受け取った。
     紙に印刷された温泉旅館のイラストは少しだけ、前世の記憶の中にある建物と似ている。私とアルベールが前世で初めて体を重ねた宿に。……区切りを付けるには丁度良いかもしれない。
     券に記された使用期限は三ヶ月ほど先。
    「今月はもう少ししたら君も忙しくなるだろう? 来月末辺りなら良いかもしれないね」
     スケジュールを考えつつ告げると、アルベールから柔らかい笑みが返ってきた。

    「おはようございます。アルベール先生、ユリウス先生」
     職員用の駐輪場。まだヘルメットを脱いでいないのに生徒たちから名指しで挨拶をされる。生徒の数はまだ多くなく、今登校しているのは部活の朝練等に向かう子たちだ。
     大型バイクに二人乗りで校内にやってくる教員は他に居ないから生徒たちは私たちだと分かっているのだ。バイクを運転するのはアルベール。晴れている日は彼のバイク、雨の日は私の車で出勤している。アルベールも車は運転できるが、車自体は私の持ち物なので車の場合は運転も私が担当している。前世と違いこの国で雨の日は余りなく、アルベールのバイクで学校に向かう日が多い。
     私とアルベールは同じ家で暮らしていてることは生徒たちや他の教師も知っているが、友人以上の関係だというのは隠している。
     アルベールの担当は体育、私は化学だ。どちらかというと進学校寄りでスポースに力を入れている学校ではなく、部活の顧問なども担当していないアルベールは、私に比べると教師として働く時間はやや少ない。私のほうは科学系クラブの顧問にもなっていて、放課後も数時間、生徒たちと関わっている。故に仕事から解放される時刻には差があり、アルベールに先に帰っていても構わないと何度か告げているのだが、彼が私を待っていない日は今まで一度もなくて。帰りもずっと二人だ。
     前世からアルベールは多くの女性から想いを寄せられていたが、それは今も変わらない。教師という立場から学生からの告白は強く拒否しているようだったが、それがなければ想いを告げる生徒は後を断たなかっただろう。私達の関係が生徒や他の教師たちに知られると面倒だとアルベールに伝え、学校内ではあくまで友人として振る舞ってもらっている。学生時代、その時は未だ些か距離は近いが友人関係であったにも関わらず、彼に想いを寄せる女生徒の企みで私が怪我を負ったこともあって、異は唱えられなかった。内心に抱える不満はあるのだろうが。
     前世の記憶は思い出していないアルベールが私を友人として以上に意識したのはその出来事が切っ掛けのようだったから、彼女の行動は結果的に私たちの関係を深めたことになる。
    「昼は外で食べないか」
     脱いだヘルメットをアルベールに渡すと昼食の誘い。私もアルベールもクラスは受け持っておらず、時間に余裕がある場合は弁当を作る。だが今日は私の担当授業が一限から且つ実験中心で、その準備があったため弁当は作らず普段より早めに家を出ていた。
     昼にこの駐輪場で待ち合わせの約束をしてアルベールと別れる。途中生徒の挨拶を受けつつ化学の授業を行う教室へと向かった。

    「ユリウス?」
     アルベールのバイクでやってきた、シャッターの閉まった店舗の多い商店街。その中にある飲食店は余り流行ってはいないものの、もう十年以上営業を続けているらしく、教員たちの間で隠れた名店扱いを受けている。そこで食事を取っていたのだが、どうやら手が完全に止まっていたらしい。顔を上げると向かいに座るアルベールが瞳に心配の色を滲ませて私を見ていた。
    「何でもないよ。少し今度の授業の班分けについて考えていてね」
     完全な嘘ではないが本当とも言えない台詞を返す。班分けについてもぼんやりと考えてはいたが、頭の中の大半を締めていたのは。朝アルベールと別れた後の教頭との会話、その内容だった。
     実験の準備中、私の元に教頭が訪れ話を始めた。学校のことではなく個人的な。話題は私ではなくアルベールに関係するもの。
     娘に良縁を結ばせるために見合いを準備しようと思い、その前に誰か好きな人は居るのかと尋ねたところ、出てきたのがアルベールの名前だったらしい。教頭の愛娘がこの学校の卒業生なのは知っていたが、在学中他の生徒と違い彼女がアルベールに懸想していた様子はなかったから少し驚いた。教頭としても意外だったようだが、同時に納得もしたと彼は呟き、理由を話し出した。
     彼女は優等生と言える成績を常にキープしていたが、運動は苦手で、特に体力を必要とするマラソン等は走り切れないこともあった。それがアルベールが体育を担当するようになると普段から走り込み体力をつける努力をするようになった、と。
     アルベールは彼女の努力を知らないだろうし、知ったとしても生徒の一人である以上、彼が特別扱いすることはない。彼女自身それは分かっていただろう。けれど努力することは止めなかったようだ。ただ好きな人に相応しくなりたい、その一心で。
     娘の頑張りに報いたい、無理に縁を結ぶ気はないが会えるだけでも喜ぶと思い、アルベールに話を持っていったのだが、彼からは首を横に振られたと教頭は大きな溜息を吐き出した。恋人が居るなら勿論諦めるが、そこはぼかされたのだ、と。
     アルベールのその態度は私が居るから、その私が関係を明かすのをよしとしていないからだ。
     私が彼の気持ちを受け入れていながら、関係の公開を渋っているのは、アルベールが前世の記憶を思い出していないのが原因だ。
     私は前世で大きな罪を犯した。過去のアルベールはそれを知っている。その上で私を求めてくれた。
     だが今のアルベールは私の罪を知らない。彼が過去を思い出して尚私との関係を求めるならその時は周囲に知られても構わないと考えていたが、その機会はまだ訪れていない。訪れないまま、二十代の半ばを越した。
     ……私に縛られたままではこの世界で結ばれるはずだった縁を逃してしまう。
     食事を終え、アルベールの運転するバイクの後ろで彼の腰に回した手に少しだけ力を込めて目を閉じる。
     今度の旅行で彼が過去を思い出さなければ。……彼の前から消えることを決めて。
     この世界は前世より遥かに命の価値が重い。だからこそ、かつての私の罪を知らない、覚えていないアルベールが私に縛られたままでは駄目だ。前世の記憶の話を自分からするつもりはない。彼が自分で全てを思い出さなければ、私の罪を本当の意味で理解することは出来ないだろう。
     それに私から話して頭がおかしいと思われるのも、この世界の価値観に染まっていると思われる彼に拒絶されるのも怖かった。
     アルベールが前世を思い出し、その上でこの身を選ぶなら、ともに歩む覚悟も決まるのだが。
     教頭に同居しているならアルベールに彼女が居るかどうかを知らないかと聞かれ。『彼女』は居ないと思いますよと返した。ただまだ結婚などは考えていないようです、とも付け加えて。
     誤魔化しだらけのずるい回答だった。
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