Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    111_846

    @111_846
    主にAIイラストツールで遊んだもの置き場。女体化しかない。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 38

    111_846

    ☆quiet follow

    夢飼い(くりつる)https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6570125 の派生話の発掘供養

    「……遅いなあ」
     平日昼間特有のゆったりとまばらに流れてゆく人並みを見ながら、僕はぼやいた。寄り掛かったコンクリートの柱が冷たい。
     ふう、と指先に息を吐き掛けた。今日はやや小春日和だから手袋をするほどの寒さじゃないと思っていたけど、流石にずっと立ち止まっていると末端が冷えてくる。
     僕は今鞄を片手に、とある人と待ち合わせをしているところだった。待ち合わせ場所は、最近住みやすくて良い街だと評判が鰻登りになっている街の駅前。一昔前に比べると駅前の開発も進んで、随分と若い人の賑わいが増えた街並みの中だ。
     目的の人物は約束の時間を十五分以上過ぎても現れず、待ちぼうけを食らっているところだった。
     明日は休みだろう、予定がなければ付き合ってくれないか。そんな連絡が入ったのは、昨夜家事や諸々のことを終えてベッドに入ろうとしていた頃だった。
     連絡を寄越してきたのは僕のおじさんだった。僕に鶴さんを紹介してくれた、ちょっと変わり者の親戚である。
     一応おじさんという扱いにしてるけれど、親戚としてはかなり複雑な遠縁らしいので正確な関係性はよく分からなかったりする。確か母方の親戚らしいことは知っているけど、僕が彼について知っているのなんて本当にその程度だ。
     でもそんなの関係なしに僕は彼のことが好きだったし、彼も僕のことを可愛がってくれた。住んでいるのが割と近所だったこともあって、小さい頃はよく彼の自宅兼仕事場に遊びに行ったものだ。縁側で一緒にお茶を飲みながらお喋りをするのが大好きだった。今でもそれは変わらない。そういえば、彼と前回会ったのはもう一年以上だったか。
     鶴さんの予定でずれることもあるけれど、基本的に毎週水曜日と日曜日はハウスキーパー業は定休日だ。特に何の予定も入れていなかったので二つ返事で了解を返すとすぐに街合わせ場所と時間の指定がきて、うきうきした気分で眠りに就き、そして今こうして待っている訳である。
     今どこにいるのと連絡を取れればいいのだけど、生憎と彼は携帯電話の類を携帯しないという悪癖がある。おかげで僕はぼんやりと待つ以外何も出来ずに、寒風に吹かれているのだった。持ち歩かないといざって時に不便だよと何度も言ってはいるけれど、時間や人からの連絡に振り回されるものは性に合わないんだとやんわり躱され続けている。なんとも困った人だ。
    「……遅いなあ」
     二度目の呟きにも応えはない。結局、僕はそのまま待ちぼうけで三十分ほど佇んでいた。
     かじかむ手を擦りながらぼんやりとしていると、不意にぽんと肩を叩かれた。慌てて振り返ればそこには待ち人がいる。相変わらず年齢の読めない白い顔は、寒さのせいか幾分赤らんでいた。
    「友成さん」
    「久しぶりだな光忠。もしかしてずっとここにいたのか」
     おじさんこと友成さんは悪びれた風もなく飄々としている。ちょっとだけむっとして、僕は子供みたいに口を尖らせた。
    「遅いよ、もう。遅刻は構わないけどこういう時のためにもちゃんと携帯電話は持ち歩くように言ったじゃないか。寒かったんだからね、僕」
    「それについては謝る。……だがしかし、俺は待ち合わせ場所は中央南口だと言っておいたと思ったんだが、打ち間違えていたかな」
    「……ん? 中央南口?」
     今僕らが立っているのは南口改札前だ。えっと、もしかして。慌てて駅構内の案内板を見る。友成さんが指差した先には確かに中央南口という、今いるところとはちょっとずれた位置にある出口の名前があった。他にも細々と中央北口やら紛らわしい名前の出口がずらずらと見受けられる。ということは、だ。
    「うわ、ごめんなさい! 僕の早とちりだったんだね……」
    「まあ気にするな。実は俺も遅れて来ていたし、おあいこということにしておこう」
    「うう、ごめん……」
    「気にするなと言ってるだろう。さ、行くぞ」
    「……うん」
     友成さんはさくさくと歩き出す。敵わないなあ、と思いつつ後に続いた。そういえば付き合ってくれと言われたはいいものの、何をするのかを聞いていなかった。どこへ行くのと訊くと曖昧にはぐらかされてしまった。
     駅から十五分ほど大通りを歩いて、いくつかの曲がり道を通って雑談をしつつひたすら路地を歩く。辿り着いたのは、こじんまりとしたカフェだった。
     全体的にクリーム色と茶色と、落ち着いた緑が基調になっている、お洒落な雰囲気のお店が雑居ビルの隙間にちょこんと収まるようにして建っている。店舗の前に建てられている黒板には抹茶スイーツ専門店である旨が白やピンク、黄色のチョークで可愛らしく書かれていた。開店前の店の前にはおおよそ女子大生くらいの女性客が十人ほど列を作り、扉にOPENの札がかかるのを今か今かと待っていた。
    「一度来てみたくてな。お前も甘いものは好きだろうと思って誘ったんだ」
     いい年の男が恥ずかしいかもしれないが、と友成さんははにかんだ。
     僕らが着いて程なくして開店時間の十一時になった。入店すると和洋折衷の内装と仄かに甘い匂いと、お茶の匂いに出迎えられる。素早く食べるものを決め、友成さんに注文を頼んで一旦お手洗いへ。途中から少し風が強く吹いてきたおかげで乱れてしまった髪を鏡を睨みながらセットし直した。割とひどいことになっていたので修正にはなかなか手間取った。
     ヘアスタイルとの格闘を終えて席に戻ると、とっくに注文を終えたらしい友成さんは手持ち無沙汰そうに店内を眺めていた。そわそわしているのが傍目にも分かって思わず笑みがこぼれてしまう。いい大人なのに、時々彼は子供のようだ。そんな童心こそ、芸術家には必要なのかも知れないとも思う。
    「そういえば国永とはうまくやれているか?」
     待ち時間にだらだらと取り留めない話をして暫く経ったころ。お冷代わりに出されたお茶をずずっと啜りながら友成さんが切り出した。
    「うん、仲良くやってるよ」
    「そうか」
    「最初はどうなるかと思ったけど、楽しく仕事させてもらってる。家事とたまに送迎やるだけであんなに厚遇してもらって、ちょっと申し訳ないくらいだけどね。ヒモの気分だよ」
    「ヒモか」
    「あんまり笑い事じゃないけどね。甘やかされ過ぎて駄目人間になっちゃいそうだ」
    「別にいいんじゃないか。おまえは昔から頑張り過ぎなきらいがあったたんだから、少しくらい駄目になった方がいい」
    「そうかなあ」
     ふふ、と友成さんは目を細めて笑う。この人も大概、僕に甘いと思う。
    「また変なものばかり作っているんだろ、あいつのことだから」
    「まあね。でも最近は絵を描いてることが多いかな。抽象画みたい」
    「そうか」
     彼にとって、鶴さんは学生時代の後輩で物作り仲間だ。鶴さんは物を作ることなら何でもやるけれど、友成さんはいわゆる陶芸家。食器類の制作をメインにしているけど依頼次第ではタイルから可愛い小物、何だかよく分からない珍妙なオブジェまで割と手広く色々なものを作っている。
     僕は昔から、彼が土を捏ね回しているのを見るのが好きだった。大人になってからは仕事場に遊びにいく機会はかなり減ったけれど、土と釉薬と炎の匂いは今でも記憶に強く残っている。
     バーテンエプロンを付けた店員さんが注文していたスイーツを運んできた。まず置かれたのは僕が頼んでいたのは抹茶とお芋の白玉パフェと抹茶どら焼きで、続いて友成さんの分も運ばれてくる。
     抹茶わらび餅と抹茶ババロアと抹茶生八ツ橋と抹茶レアチーズケーキと抹茶パンケーキと抹茶チョコフォンデュ一式が、どかんとテーブルに並べられた。思っていたよりも凄い量、そして全面的な緑色に僕は一瞬目が点になってしまった。ついでにちょっと抹茶がゲシュタルト崩壊しそうだった。
    「ようやく来たな。さ、食べよう光忠」
    「…………友成さん、それ一人で食べきれるの? 大丈夫?」
     わらび餅と生八ツ橋とババロアは然程量はないけどチーズケーキはそこそこの大きさのホール丸ごとだし、パンケーキは分厚いのが三段にプラス生クリームとあんこたっぷり、チョコフォンデュは付けて食べる用の白玉やら苺やらクラッカーやらが結構な量だし、友成さんの細身にこれが入りきるんだろうかと流石に心配になる。けど彼は今までに見たことないほど不敵な笑みを浮かべて、自信満々に断言した。
    「ふっ、俺を侮るなよ光忠。このくらい朝飯前だ」
    「そ、そう? くれぐれも無理はしないでね……」
     じゃあいただきます、と手を合わせてから僕はパフェから抹茶アイスを掬い一口。途端、ふわりと口の中から鼻にまで抜ける爽やかなお茶の風味に思わず目を瞠った。アイスは雪のように軽やかな口溶けですぐになくなってしまい、残るのはひたすらに芳醇な抹茶の香りと甘さとほろ苦さの余韻。それら全てがたまらないハーモニーを奏でている。何これ美味しい。少し下の方に沈んでいる黒蜜ゼリーも抹茶プリンも絶品だ。柔らかくほろほろ口の中で崩れていく食感の層は砕いたクッキーか何かだろうか。僕が知ってる抹茶パフェの中でも飛び抜けて美味しいんだけど何これどういうこと。パフェに刺さっている芋けんぴのようなものを齧るとこれまた凄まじく美味しい。芋けんぴの概念が打ち崩されたような気分にさえなってくる。うわ、ちょっと待って何これ本当に美味しい。
     感動しながらがつがつ食べ進めて無心で半ばまで到達した頃、ようやく我に返る。目の前では友成さんがにこにこしながらチーズケーキを口に運んでいた。
     さっきの僕の心配なんて完全な杞憂だったみたいで、友成さんはぱくぱくとスイーツの群れを食べ進めていく。その手は休まず止まらず。決して焦ったりがっついたりしている訳じゃない、それどころかいっそ優雅さすら漂わせているのに、スピードはとんでもなく早かった。あっけにとられて僕はぽかんとしてしまう。何だか手品でも見ている気分だ。そのあまりの食べっぷりに店員さんも他のお客さんも茫然というか、いっそフードファイターでも見ているような顔をしていた。
     大半の抹茶スイーツがあっさりと彼の胃袋に消えていって、最後にババロアをあと数口残すのみとなった頃にようやく友成さんは一息ついた。
    「うん、美味いなあここのは。来た甲斐があったというものだ」
    「う、うん……。すごいねおじさん……そんなに大食漢だとは知らなかったよ」
    「ん? そうでもないとは思うが、甘いものは別腹だろう?」
    「それ何か使い方違くない?」
    「まあ細かいことは気にするな」
     幸せそうに最後の一口を口に運ぶ姿を見つつ僕もなんとか自分のパフェを食べきり、お茶で口内をさっぱりさせた。どら焼きが一つ残っているけどこれはもうちょっとしたら食べよう。
     きりもいいし、そろそろ気になっていたことを訊いてみることにした。
    「……ところで友成さんさ」
    「うん?」
    「伽羅ちゃんのこと知ってる?」
    「伽羅?」
     紙ナプキンで口元を拭いながら彼は首を傾げる。僕は声をひそめた。
    「ほら、鶴さんちの……ペットの子」
    「ああ、あれか。勿論知ってるとも」
     うんうん、と頷く友成さん。どうやら顔と名前が一致していなかっただけのようだ。しかしあれ呼ばわりに流石にちょっと渋い顔をしてしまう。
    「知ってて僕にハウスキーパー勧めたの?」
    「ああ。別におまえはあのくらいこと気にするような心の狭い子じゃないだろう?」
    「心狭いとか云々の話かなあ……」
     何だか脱力してしまった。あの状態をこんなにもあっさり許容しているという時点で、なんというかやはりこの人も普通の感性とは違うんだろうなあと思わされた。これだから天才肌の芸術家という奴は。
    「伽羅ちゃんのこと、何か知ってる? どこの子だとか、なんで鶴さんに飼われてるのかとか」
    「なんだ、気になるのか光忠」
    「そりゃあ倫理的にどうかと思うところあるし、一応気になってるよ。勿論鶴さんがいい人なのは分かってるけど、いくらなんでもあれは犯罪的じゃない?」
    「合意の上ならいいんじゃないか?」
    「そういうものかな」
    「そういうものだろ。そもそも合意じゃなかったとしても、あの子には鶴丸以外に寄る辺はないし、身内を捜そうとしたところで無駄だろうしな」
    「……伽羅ちゃんの素性知ってるの?」
    「いや全く知らん。だがおそらくあの子が身寄りも何もない、他に居場所のない子だということは分かるさ。あいつがあの子を買った時に、俺もその場にいたからな」
    「えっ」
     あまりの衝撃に本日二度目の目が点。絶句する僕に構わず友成さんは至って平静に続ける。
    「かれこれ五、六年くらい前かな。どこだったか、国内の……いや、海外だったかな? まあ詳しい場所は忘れてしまったが、創作意欲を刺激する何かに触れたいとか言い出した鶴丸に連れられて、とある市に行ってな。そこで出品されていたあの子を見つけたんだ。一目見てから買うまでの即決っぷりを見る限り、あれは一目惚れだっただろうな」
     過日を懐かしむような柔らか笑みに反して、内容は物騒というか不穏極まりない。人身売買の話を身内から聞くことになろうとは、と苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。
    「懐かしい話だ。確かあの時は十二、三歳くらいの子供だったが、もういい大人になっている頃か。どうなんだ? 最近鶴丸の家には行っていないから顔は見てなくてな」
    「……そうだね、まだあどけなさはあるけどもうそろそろ大人の男、って感じ」
    「そうか。健やかなら何よりだ」
     寄る辺のない子供。人間性を剥奪されて愛玩される子供。果たして彼は何を思い鶴さんの元へとやってきたのだろう。何を思い、鶴さんのものでいることを良しとしているのだろう。それを問いただしてみたいと思った。けれどあの子はきっと口を開くことはないだろうとも思う。
     僕が言葉に詰まっていると再び店員さんがやってきた。その手にはまた大きな緑色のものが。
    「お待たせしました、抹茶カスタードパイでございます」
    「おお。来たか」
    「!? まだ食べるの!?」
    「ああ、まだまだいくぞ」
     この人の胃の容量どうなってるの。衝撃のあまりもやもやしていたものが全て吹っ飛ばされてしまった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works